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折り梅のkuuのレビュー・感想・評価

折り梅(2001年製作の映画)
3.9
『折り梅』
製作年 2001年。上映時間111分。
松井久子監督が感動の実話『忘れても、しあわせ』を映画化。
痴呆の老親を抱える家族の戸惑いと葛藤、失われた絆の再生までを真摯に見つめた人間ドラマ。

名古屋郊外のベッドタウン、豊明市。
サラリーマンの夫・裕三とパート勤めの主婦・巴、そして中学生と小学生の2人の子供。
この家族4人の生活に、ある日、裕三の母・政子が加わることになる。
しかし、同居して間もなく政子が変調をきたし始める。
毎朝ぞうきんを縫っては巴に渡し、突然激昂しては巴を罵る。
診断はアルツハイマー型痴呆症。
パートを続けたい巴はヘルパーを雇うがうまくいかず、理解のない夫との関係も険悪となっていく。
一方、政子のほうも痴呆という思いもよらぬ事態に言い知れぬ恐怖とやり場のない苛立ちが募っていく。。。

※活きる希望と今後に向けての光を見せたエンディングですが、認知症のリアリティーのある出来事を映画で表現されています。
実際に介護や世話で大変な方にはあまりにもつらいかも知れません。
老婆心ながら。
また、小生はあまりにも軽々しい感想を綴ってるやも知れませんし、もし気分を害されましたら、無知ゆえにとお許しください。

おばあちゃんがものを忘れる。
ひがむ。
別人のように人格が変わる。
どうどうめぐりの日々から、多数の人との関わりの中で、新しい一歩を踏み出し、おばあちゃんの絵の個展を開くまでの3年間を主婦が率直につづる小菅 もと子原作『忘れても、しあわせ』の実写化の今作品。

高齢化の進展とともに、認知症患者数も増加してる。
『日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究』の推計やと、65歳以上の認知症患者数は2020年に約602万人、2025年には約675万人(有病率18.5%)と5.4人に1人程度が認知症になると予測されてるそうな。
先日、日本とアメリカの製薬会社が共同で開発したアルツハイマー病の新薬について、アメリカのFDA=食品医薬品局は『患者への有効性が確認できた』として、治療薬として承認したことを発表した記事を目にしたりはしてる。
しかし、小生は親の老いを目にしてない。
情けないことに死に目すら見てない。
兄姉も老いに向かっていたとて疎遠。
故に老いからくる認知症の方は、あくまでも物語などで知るのみ、最近では『認知症ポジティブおばあちゃん』なんて動画を見てはクスッと笑ったりもしている。
それで、あたかも知ったかぶりの『他山の石』如く人心地をついている。
そんな甘っちょろい考えで今作品を視聴しました。
今のところ認知症を罹患した親しい人はいないが、今後もそうであるという保証はない。
作中のセリフにも、
『あんただってボケない保証はない』
の様に誰にでも起こりうる問題であり、今や社会問題でもある。
今作品は、そんな認知症を理解するための格好の教材になるに違いない。
実際、認知症の知識の初級的な事を知れた(あくまでも気がしてるだけでもっと学ぶ必要はありますが)、また、実話に基づいているので、説得力がありました。
映画の前半は、政子ばあちゃん(吉行和子)がアルツハイマー病を発症し、彼女を引き取った家族と度々諍いを起こす様子が描かれ、険悪で暗い雰囲気に包まれる。
この絶望的な状況はどこまで続くんやろうと、暗澹たる気持ちになった。
これがまた吉行和子が巧い。
妻の巴(原田美枝子)の怒りもどんどん増幅していき、このまま一緒に暮らしていくのは難しそうなんて思ったりもして、ヤキモキした。
原田恵美子も巧い。
巴が加藤登紀子演じる中野先生主宰の
『認知症患者の会』に通い、政子婆さんも自分の病気を自覚し、苦しんでいることを知ったことで、状況は劇的に好転する。
認知症患者さんが出てくるの描写はドキュメンタリーを見てるような描きかたがリアルやった。
前半とは対照的に後半は明るいムードになり、観てる側は救われる。
『己が変われば相手も変わる』
という巴のセリフが作中にあった。
実際、中々難しいことやろけど、動画で配信されてる『認知症ポジティブおばあちゃん』でも回りの家族はポジティブにおばちゃんと接している。

綺麗事にはなりますが、

己が変われば相手も変わる。
心が変われば態度も変わる。
態度が変われば行動も変わる。
行動が変われば習慣も変わる
習慣が変われば人格が変わる
人格が変われば道が変わる
道が変われば人生が変わる

自分が変化する事で道が変わる。
これは自明の理。
ホンマに自分を変えるだけで人生が変わるのか?
自分が変わった事でなにが起こるのか?
これはあらゆる関係云える(難しいことやけど)。
自分が変わったら周りからの反応や対応が変わる事はよくある事。
自分がいい方向に変われば周りが尊敬し始めたり、関わっている人も自分の影響を受けていい方向に変わる事もある。
逆に悪い方向に変わったらどうか?
もしくは、ネガティブに反応したり対応したら、 
当然、人から見放されて行き、関わる人も自分に似た悪い人間が集まってしまいかねない。
悲しいかな、ゼニや権力があれば見せ掛けはそうはならないが、真実はネガティブに移行する。
これを考えると、自分が変わると相手が変わるってのは間違っていないはず。
相手も人間であり、愛情を持って接すれば理解されないわけがないとなる。
介護する、される側もどちらが先にせよ
『己が変われば相手も変わる』
を念頭に善き心で接すれば好転することが多々ある事例を見れたような気がするし、学べた。

今作品では吉行和子も原田美枝子も演技が巧だった。
正直、夫・裕三役のトミーズ雅と中学生と小学生の2人の子役は棒読みで演技はサブかったけど、吉行和子も原田美枝子がカバーしてた。
吉行和子の迫真の憎らしい演技には思わず怯むほどやったし、た原田美枝子の憎しみから愛情への心の変化も巧な演技やった。
後半の政子を見る巴の表情が美しく泪すら出るほどの演技でした。
何気ない表情でも惹かれた。
きわめて芸術的なテーマをもつこの社会派作品を、介護の真理を一つ呈示した参考書とみるだけでなく、家族のかかわりあいの理想を模索する一助と捉えてもよい作品やと思いました。
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