『記憶』とは、人間に与えられた特権か、武器か、それとも重荷か。
30年前という遠い過去の少年失踪事件の記憶に苦悩し翻弄される登場人物たちの模様は、勇敢ではあるものの、すこぶる孤独で、自分勝手で、救いがない。
記憶を美化し、捻じ曲げ、遂には自分も被害者だという顔をした人間が折り重なる。そんな事ある訳がない。お前らの誰かは絶対に加害者だろう。見方によっては全員が加害者だ。
実際に起こった事と、人間の記憶には違いが生まれて来る。
自分にとって都合の悪い記憶は全て、雪煙の向こうへ捨て去ってしまうのだ。
人間とは、斯くも都合の良い生き物なのだろうか。
もし『記憶』というものに実態があれば、奴らは人間を見て鼻で笑いやがるんだろうな。
日本海に面したと思しき田舎町。波音高く荒れる海と、降り続ける雪。
その映像の美しさと音の使い方で、舞台の凍てつきが客席まで伝わって来るかの様だった。
映像がとことん綺麗だった。
画に映る要素の全てが『記憶』というテーマに帰結していく。
これは偏に脚本の底力からくるものだろう。
菜葉菜さんという女優さん。
失礼ながら初見であったが度肝を抜かれた。素晴らしい役者さんだった。