桃子

テリー・ギリアムのドン・キホーテの桃子のレビュー・感想・評価

4.6
公開初日の最初の回(業界用語では「ウチコミ」というらしい)で見てきた。いつも行く映画館ではなぜか上映スケジュールに入っておらず、検索して少し遠くの同系列の映画館まで行くことになったけれど、念願の映画が見られて大満足!とても面白かった。
「未来世紀ブラジル」を面白いと感じる人は大丈夫だろう。もっともアプローチはだいぶ違う。映画を撮影している人物を撮影する、という入れ子状態になっているうえに、現実と幻覚・妄想のシーンが入れ代わり立ち代わりに出てくるカオスに困惑させられる。私的にはこの混乱した感じがたまらなく好みで、これぞテリー・ギリアムだ!と思うわけだ。
「ロスト・イン・ラ・マンチャ」を見た理由がジョニー・デップだったことは以前のレビューにも書いたが、どんなストーリーなのかはすっかり失念していて、主人公のトビー・グリソーニの役がデップだったのかと納得した。エキセントリックな役をやらせたら右に出る者はない俳優さんである。ギリアム監督がデップを熱望したのも理解できる。苦節30年の末に完成した今作では、SWでカイロ・レンを演じていたアダム・ドライバーが怪演している。デップの方がいいと思うけれど、ドライバーも悪くない。あの独特なお顏はインパクトが大きい。
それにしても、撮影は大変だったんだろうなと思わずにはいられない。トビーは踏んだり蹴ったりの目に遭い続ける。全身が泥まみれ、服はボロボロ。まるで、監督自身が何度も撮影に挫折して悔しい思いをしたことを暗示しているかのようだ。自虐を込めているに違いない。
監督はなぜ、この映画を諦めなかったのだろう。強い信念がある、というだけでは、理由にはならない気がする。何年かかろうとも諦めるものか、なんとしても完成してやる。そういう気持ちが画面を通して伝わってくる。こういう映画はなかなかない。
桃子

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