イェスタデイワンスモア

おクジラさま ふたつの正義の物語のイェスタデイワンスモアのレビュー・感想・評価

4.1
*正義の多様性の複雑性を描く良質なケーススタディ

決して簡単ではない問題を見渡す重要なドキュメンタリー映画。人文学、特に人類学や美術史(脱植民地議論で)なんかを学ぶ人は、この映画で提供される視点の中で自分の意見を編み出すことが非常に有意義なトレーニングになりそう。

作中で示されている様々な意見のどれもが正義とみなすことができ、日本人というポジショナリティーから鑑賞すると感情的に観てしまうシーンも多数あった。でもそれに水をさす視点も提供される。

・「例えそれが伝統であっても間違っているものは直さなければいけないことがある。奴隷制度が良い例である。」(シーシェパードのスコットさん)👈確かに...

・「日本人が平均して一年にハム一枚分しか消費しないもので国が二分する議論が起こっている。」(日本国内の環境保護活動家のおばあちゃん)👈なるほど...

・「太地町の人々はデジタルメディア的にも英語的にも彼らの意見発信で非常に不勢である。でも、それは太地町の人々のせいではない。彼らはただの町民なんだ。」(ジャーナリストのジェイさん)

その一方で、シーシェパードと人間臭さ溢れる右翼団体的グループとの交流なんかが微笑ましかった。なんだかんだヒトがやっていることで、互いにイジワルしてるわけではないのだと、不思議なヒューマニズムをこの会話に感じた。

この映画について書くべきことは沢山あるが、核として言えるのは、環境正義と文化的価値観の不整合性であろう。環境問題やサステナビリティに関する知識生産・価値生産が西洋文化圏に依存している現状の中で、どのように植民地主義のロジックを脱したシステムを作るのか。

感情的になってしまう自分自身もエスノグラフィーの対象にしながら、文化と環境問題という非常に複雑でエキサイティングな難題に立ち向かわなければ...。