YAJ

希望のかなたのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

希望のかなた(2017年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

【山田孝之】

 シリア関連の映画がこのところ多いので、シリア難民を題材に扱っているというので本作も観てみたもの。

 主役の山田孝之(似のシェルワン・ハジ。シリア難民カーリドを演じたシリア人俳優)、『地獄の黙示録』のマーティン・シーンが水面に顔を出した瞬間のような登場は迫力もの。無表情なフィンランド人に対し味わいある表情と演技で魅せる。その彼を取り巻くのは古色蒼然とした画質、トーン、原色使いの面白い画面構成など、一筋縄ではいかない絵作り、そのこだわりは、巨匠たる所以か。

 ストーリーも独特のペーソスと、大胆な説明の端折り方が観る側の想像力を巧みに刺激するあたり、手練れの作り手だなと思わせる不思議さがある。場面展開も、舞台演劇を見るかのようで実に面白かった。ハマる人は、ハマるんだろうなあ。”作家性”なんて言葉が、すぐに思いつく、いわゆる通好みのする作風。

 一方、お話は、難民問題は然程正面切って描かれておらず、一味違う印象を受けた。
 ”難民”とひとくくりに我々は見てしまいがちだが、自分で道を切り拓こうとする山田孝之…もとい、カーリドのような難民もいるんだと、”難民”としててではなく、ひとりの人間として見ることができたかもしれない。
 また、そんな彼を、難民として助けるというよりも、生活できるように、生きていけるようにと、とくに社会問題を解決しようと言う大上段な力みもなく受け入れてサポートする人たちの淡々とした様子が面白い。
 それが、難民問題への解決、とまでいかないまでも、理解の一助になるとすれば、面白いものだなと、どこか不思議なこの作品を見て、思えたこと。 悪くないです。

 監督のお名前も、今回で、ちゃんと覚えた気がします(笑)



(ネタバレ含む)



 言わずと知れた、内戦が激化するシリア。政府軍なのか反政府軍なのかも分からぬミサイル爆撃で家族を失った青年カーリド。ハリウッド映画じゃないから、回想でリアルに爆撃シーンが再現されることはない。難民申請事務所で、山田孝之が淡々と語るだけ。偶然、流れ着いたフィンランドで生き別れた妹を探すべく難民申請するが認められず、という境遇。

 そんな彼に救いの手をさしのべるのが、もう一人の主人公レストランオーナーのヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)。カーリドを雇い入れ、不思議な従業員たちと、落ち目のレストランの再興に励む様子がユーモラスに描かれる。

 難民という生きる望みも持てない立場のカーリドと、人生をやり直そうとするヴィクストロムとレストラン従業員たち。それぞれの未来に、そこはかとなく希望の光が射すのか射さないのか。なんとも不思議な物語。
 人の善意なんてものは、相手が難民だからどうのこうのってもんじゃないってことかもしれない。困っている人がいれば声を掛け、自分の出来る範囲のサポートをする。愛想笑いも、なにもないフィンランド人たちだけど、ふとした仕草や表情が、独特のユーモアを感じさせ、不思議な安心感を醸し出す。これがカウリスマキの作風なのか。

 カウリスマキは親日家でもあるそうだ。日本映画、特に小津安二郎を敬愛しているのだとか。レストランが一念発起して寿司屋に衣替えする展開や、日本歌謡がBGMに流れているシーンなどは、日本のファンに向けたサービス!? サービスなのかどうなのか、それすらも非常に分かりにくいのだけど(笑)。
 そんな演出上のサービスも分かりにくければ、難民に対する救済も、けっして分かりやすいものではない。いわゆる、難民を受け入れ、生活できるよう市民権を得させるという正当な手順なんてお構いなし、困っているから助ける、という、ある意味、まっとうな救いを差し伸べる。それって、実は深くない?実にイミシン。

 結局、妹も行方が知れ、ヴィクストロムの伝手を辿って、リトアニアからの密入国に成功する。ここも、端っから正式な手順を踏もうとしないところが面白い。ある意味、それが現実ということかもしれないが。
 密入国を手助けしたトラックドライバーとのやり取りが、心に残る。ヴィクストロムがお礼を渡そうとするが、「良いものを運んだ」からと金銭を受け取ろうとはしない。

 救いって、こういうもの?善意って、そういうもの?と、いろいろと深く考えさせられるお話だった。
 そして、さらにイミシンのエンディングと、エンドロールと尺の合わないエンディング曲!(音楽が終わって、延々とエンドロールを見せられたのは初めてだった)。ミョーにひっかかる、カウリスマキ作品!!
YAJ

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