ぬ

希望のかなたのぬのレビュー・感想・評価

希望のかなた(2017年製作の映画)
4.5
いいな、好きだなこの映画…
今回も素晴らしい人間賛歌。

シリアの戦争の混乱から逃れ、生き別れになってしまった妹を探し続けた末にフィンランドへ辿り着いた移民の青年。
難民申請の許可が下りず、路頭に迷っていたところを排外主義のグループに襲われる。
踏んだり蹴ったりな青年だが、冴えないレストランのオーナーに拾われ、そこで働き始める、というストーリー。

移民や難民問題という題材だけに、シリアスなストーリーではあるけれど、今回も他のアキ監督作品とおなじく、クスッと笑えるシーンやシニカルなギャグもたくさん。
やっぱり登場人物みんな癖が強い。
でも実際、割とフィンランド人てこんな感じな気がする。
唐突に挿入される日本ネタにはかなり笑った。なんじゃありゃ!

そんでもってやはり、今回も犬が出てくる。
またしても良い味出しまくっている、素晴らしい犬である。
さらに、音楽もやはりいい。
ヒトの役割も、イヌの役割も、音の役割も、すべて丁寧に配置され、等しく愛が溢れている。

そして根底には、他の作品と同様に社会的弱者を包み込むような、無口で無愛想な心地よい優しさが漂っている。
移民であるというだけで敵視し、故意に傷つけようとする人もいれば、やさしく見守り、手を差し伸べ、個人のパーソナリティを見つめて寄り添ってくれる人たちもいる。
どちらかに偏った描き方ではないのがよかった。

ラストシーンがとても印象的で素晴らしかった。
なんて愛おしく美しく叙情的なラストシーンなんだろう。
アキ監督の作品には、決してぜいたくではなく、慎ましく、不器用な人々を見守るように、さりげなく光が射している。
そしてその光は、むしろ慎ましく、不器用な人々でなければ気付くことの出来ない光だと感じる。

個人的に私自身、異邦人としてフィンランドで数ヶ月暮らし、現地の学校で、故郷に住める状況ではなく逃れてきた移民の方たちとも接する機会があったので特に感慨深かった。
(少なくとも滞在中に私自身も周囲でも差別を体験したことはなく、むしろアキ・カウリスマキの描くようなフィンランド流の無口な優しさを何度も体験した。)

そのような思い入れもあり、好きなアキ監督の作品上位に間違いなく入る作品だった。
日本で公開がはじまったらまた観に行こうと思う。
ぬ