昨今亭新書

ドグラ・マグラの昨今亭新書のレビュー・感想・評価

ドグラ・マグラ(1988年製作の映画)
4.8
言わずと知れた日本三大怪奇小説の一角、その映画版。原作は未読だが、これだけ悪名(?)高い作品の映像化としては出来過ぎなのでは。

何と言ってもまず、映像と演技が最高。昔の大学校舎特有の陰気さや、今からすると芝居がかった大正期の服装、そして3:4の古い映像。全てが作品の持つおどろおどろしい雰囲気を増強させている。
そして桂枝雀の怪演。「パプリカ」を彷彿とさせる有名なシーンは今まで観た映画のシーンの中で一番好きなくらい。枝雀の実人生と重なる部分もあり、これ以上ないキャスティングだと思う。それに負けない狂気を見せつける主人公?の少年も天晴れ。

※ここからは『ドグラ・マグラ』そのものの感想。直接的なネタバレは無し、原作未読の2点はご了承願いたい。


夢野久作は短編『瓶詰地獄』だけ読んだことがあるが本作も同じテイストだった。読者が謎を解こうとして懸命にもがくほど、全ての考察に穴があることに気づき、最終的には狂人のイタズラ書きの線が一番濃厚かもしれない、なんて考えざるを得なくなるタチの悪い作家。

ただ、それだけで片付けるのは思考停止ではと個人的には思う。ネタバレになりうるため書かないが、全ての疑問に辻褄が合う、とは言わないまでも「ミステリー小説的に」一番筋の通った解釈というのは見出せていいはずだし、また鑑賞後にボンヤリとそれらしい筋が浮かぶ気もするからだ。
とまあ一応言ってみたものの、この解けそうで解けない感じこそが夢野久作の真骨頂、と言われたら納得してしまう自分もいる。
これだけ「まともでない」作家なのに、実はきちんとした正解を用意しているのでは、という希望をどこか捨てられなくさせること自体が夢野久作の狙い。結局は誤魔化しているような書き方になってしまうが、今の所の自分としての結論はそんなところ。