みゅうちょび

ホールド・ザ・ダーク そこにある闇のみゅうちょびのレビュー・感想・評価

3.9
Netflixの本作、配信開始当時ずいぶん前に一度観て、タイトル通り何とも言えない暗い闇を表現していて、監督の得意とする非情な残酷描写が冴え渡ってました。

特にアレクサンダー・スカルスガルドの表情ひとつ変えずにぐっさぐっさ🔪🩸やるとこ何度も見ちゃいます💦

本作「ブルーリベンジ」のソルニエ監督作。観れば観るほど、噛めば噛むほど面白いです!

物語は、アラスカにある架空の小さな村?キールットが舞台。因みにちょっと調べたところ、キールットは狼男のような伝説の怪物の名称でもあり、映画でも狼が重要な鍵となる。

狼など野生動物の行動を研究している男性コアがキールットに住むメドラ・スローンという女性から「息子を狼に攫われたが、誰も助けにならない。息子は生きていないだろうが、戦地から戻る夫に息子の一部でも攫った狼の一部でもなんでも見せたいので、その狼を殺して欲しい」という手紙を受け取り、メドラを訪ねる。狼に共感を示すコアだが、メドラを憐れんでハンティングに出かけるものの、結局殺せぬままメドラの元に戻ると家はもぬけの殻。彼は家の中でメドラの息子の遺体を発見。警察が動き出す頃にはイラクの戦地に派遣されていた夫ヴァーノンも戻り・・・

というのがあらすじ。

なぜ?

以下若干ネタバレ気味ですが、恐らく観てない人には全く意味不明だと思います。

え??結局母親が子殺しをしたのか!という驚きを超えて、この後夫ヴァーノンが警官たちをいきなりぶっ殺しにかかるという急展開を迎えるのだけれど、最初から最後まで「なぜ?」が説明されないように見えます。

ソルニエ監督作は、「ブルーリベンジ」のように小作品だと多くを説明しないことが作品の面白さをギュと凝縮してくれるけど、本作のボリュームだとパズルがでっかいので、本作が好きな人と語り合うのが楽しいですねー。

あんまり好きな人が見つからないのがとても残念です。

多くの謎を孕んだ本作がじゃあ何を言いたいんだ?と?それはもう、感じるがまま😅

舞台となるアラスカのキールットはインディアンの居留地。「ウィンドリバー」でも描かれたように、その土地は寂れて、やっと水道や電気が整備されたもののあと数年もしたらゴーストタウンと化すような環境。アメリカ本土も都市アンカレッジからも見捨てられている。

そんな小さくて貧しい土地で、唯一の希望のはずの子供が狼に攫われても警察は遺体を探してもくれない。

狼は、群れの中で大きなストレスや異変を感じる時、その群れの子供を親が殺して食べる行動をとることがある。実際コアがその現場を目撃している。

恐らく…恐らく…

メドラと夫であるヴァーノンは明らかにその土地で不自然な唯一の白人で、村八分にされていたに違いない。彼らが突然変異のようにその土地で生まれた白人なのかそれは分からないけれど、インディアン達からすると彼らは異質な者たちで、その土地に追いやられたインディアンからも更に追いやられてる存在。

しかも、もう一つの大きな闇は、ヴァーノンの暴力性、恐らくそれは息子にも受け継がれていて、そこにはもう狼の群れにも起こっているような異変が起きているっとことかと。

追いやられた彼らの種には謎があって、最後まで見ると、それが近親婚によるものかもしれないと匂わせる。(冒頭で既に、ヴァーノンとメドラは兄妹であることが示唆されてるし、多分、ヴァーノンは父親を殺してると思う節がある。それは父親の暴力からメドラと息子を守る為。)

彼らが狼の化身とは思わないけれど、その土地の闇を目の当たりにした動物行動学者であるコアには、彼らはあたかも人間ではなくその土地に追いやられや自然発生的に変異せざるを得なかったなにかと思うしかないような気がする。

この話の冒頭で、動物学者コアが目撃する狼の群れの子殺しから考えると、おのずと狼たちに起きている異変と、メドラ達に起きている異変は重ならないとおかしい。

必要なら人を殺してもいいと言う動物的とも言えるヴァーノンには情けがないわけではなく、唯一の友人であるチーオンの絶望を理解している。
チーオンは、狼に子供を攫われても警察は遺体を探してもくれず、妻は去り、キールットではひとかけらも希望がなく、ただその腹癒せと自暴自棄で警官を皆殺しにしただけとも思えない。あれくらいのことをしない限り彼らの叫びは外には届かない。

機関銃は多分ヴァーノンのつてがあって手に入れたんだろうな。

で、最後の最後に、インディアンの中にもう1人、明らかに白人でメドラに似た女性が登場する。多分彼女がメドラの母親なんだろうな。

なんて言うか、長々と書いてしまったけれど、タイトル通りの闇って、やはりすごく大きな闇で、アメリカと言う国が抱え込んでいる闇でもあるだろうし、人の心の中にある闇でもあるんだろうな。

何かのせいにして生きる。あの土地で、インディアンも被害者なのかも知れないけれど、なんでも狼のせいにされて、狼たちだってそこで必死に生きているだけなんだよね。

ジェレミー・ソルニエ監督も低予算作品からいきなり結構な予算で本作を撮ったけど、脚本は、本作にも登場してなかなかの死に様を披露する俳優メイコン・ブレア(最近ではパーフェクトケアでもいい役を演じてくれていました)が担当。

音楽も凄く良かったし、とにかく雰囲気とか、こういう謎が謎を呼ぶ作品て色んな考察ができて面白い。

けど、是非ともソルニエ監督、メイコン・ブレアから正解があるならそれを聞きたい!
みゅうちょび

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