わさび

偽りの忠誠 ナチスが愛した女のわさびのレビュー・感想・評価

4.3
第二次大戦初期、オランダに亡命した元ドイツ皇帝・ヴィルヘルム2世の警護にあたる事になった、ナチスの大尉・ブラント。元皇帝の屋敷に住まうと、彼は途端にメイドのミーカを見初め、2人は情事を重ねてゆく。屋敷の内外では、復権を望む元皇帝夫妻の思惑と、彼らの存在を危険視するナチスの思惑とが交差し、緊張が生まれていた。そんな折、ブラントの耳に、近辺にスパイが居るとの情報が入る……。

佳い作品だった。
鑑賞し始めた当初は、ナチス軍人とユダヤ人女性との、世俗的な"禁断の愛"の物語かと思って割合気楽に構えていたのだが、決してそうではなかった。
何しろブラントのミーカに対する思いやりと、ナチス軍人には珍しい彼の善意に、胸を打たれるのだ。
初めはおざなりに始まった二人の情事も、時間が流れるにつれ、その意味を深くしていく。やがて二人に迫りくる戦争の脅威、政治的緊張。本作はそれらを重厚且つスリリングに描き出し、後半は私も固唾をのんで見守った。
そして、ブラントとミーカの関係に大きな影響を及ぼすヴィルヘルム二世を演じた、クリストファー・プラマー。彼の演技が(当然ながら)素晴らしい。最早存在が素晴らしい。彼の存在によって、映画全体が引き締まり、物語にも深みと温か味が加わっていたように思う。
脇役陣も実力派が揃っている。ジャネット・マクティア、ベン・ダニエルズ、エディ・マーサン。彼らが土台を支えているお蔭で、この映画の安定感は揺るぎないものとなった。
役者が良く、脚本も良く、音楽も良い。観て良かった。

原題は「The Exception」、つまり「例外」。秀逸なタイトルだ。
ブラントとミーカの例外的な関係、ブラントの例外的な善意、そしてヴィルヘルム二世の例外的措置。こんな「例外」が実際にあったらどんなに良いかと思うし、また、あって然るべきだとも思う。
わさび

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