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怪物学抄のdm10foreverのレビュー・感想・評価

怪物学抄(2016年製作の映画)
3.9
【一番の怪物は・・・】

皆さんは「雪虫」という虫をご存知でしょうか?
生息地域ってどの辺りまでなんだろう?

北海道では秋から冬に移行する一瞬にだけ発生する小さな羽虫なんですが、東北とかにもいるのかな?

全身に真っ白な綿毛を纏っていることからこの呼び名がついたのですが、1~2匹がフワフワと飛んでる分にはなんとも愛らしいです・・・が、ピーク時には目も開けられないくらいに大量発生して大群の中を歩けばコートや髪の毛にくっついてしまうので、迷惑っちゃ迷惑です(笑)
でも、北海道民はこの雪虫を見ると「あ~もうすぐ初雪降るね~」と冬支度を加速させる、いわば「風物詩」的な存在でもあるんですね。

実はこの虫の正体はアブラムシの一種らしいのですが、「アブラムシ」って言っちゃうと一気に可愛げが薄れてしまうので、道民は親しみを込めて「雪虫」と呼びます。
で、この「雪虫」の生態ってとっても不思議で、初雪が降る1週間前くらいに突如発生して、数日で一斉に姿を消してしまったり、オスには口が無く孵化してから死ぬまでの数日間一切何も食べずにただ生殖だけをして死んでしまったりと、とにかく未だに謎が多い虫らしく、その道を専門としている学者さんでも生態をなかなか把握しきれていないというのが現状だそうです。

・・・そんな事を考えてると「世の中の動物の生態」なんて、人間が知った気になっているだけで案外何にも知らないもんなのかもしれないな~なんて感じたりもして。
この6分程度のアニメーションには、そんなニュアンスが込められているような気がしました。

まず、このシュールな世界観は大好物。
異質なキャラクターたちが淡々と右から左へ流れていく様は、どことなく「モンティパイソン」のブリッジなんかで使われていたテリー・ギリアムのアニメーションの雰囲気すら感じる(あそこまでのお下品さはないけどね)。

で、出てくる怪物たちが絶妙に「気持ち悪く」それでいて「愛らしい」。
「飼い慣らされた野生」「鎧という名の武器」「飛ぶか死ぬか」・・・

この奇天烈な怪物たちの中には、我々人間の中に蠢く(うごめく)「弱さ」「欲」「癖」などを個別に具現化したような姿のものも紛れ込む。
それはまるで一昔前の見世物小屋のような『得体の知れないものへの好奇心』が誘う不思議な空間。

そもそも、「河童」や「天狗」とかって、その「種類」だけで十把一絡げにしてしまうけど、もしかしたら色んな個性や個体差(能力差)だってあるかもしれないし、それと同じように「人間」だってその形態が同じだから「人間」っていう括りにはなっているけど、ぶっちゃけて言えば「同じ人間」なんて一人もいないしね。

『みんなちがって、みんないい』とは言ったものだけど、でもやっぱり「人間」というひとつのカテゴリーの中でみれば、その個体差はお互いの許容の範囲を遥かに超えているくらいに飛び散っている。
犬や猫にも個体差や性格の違いはあるけれど、ここまで違いをフィーチャーしやすい動物は人間以外にはいないよね・・・。

そういう特徴を一個一個切り取って「1ピース販売」してみたら、こんな歪な感じになりました・・・っていう一種の皮肉的な要素もあって・・・。

結構シュールだけど、こういうの好き。
なんならA・ビアスの「悪魔の辞典」くらいに風刺や毒が入っていても嫌いじゃない。

でも、山村監督の作品ってシュールではあっても、そういう「雑み」や「エグみ」を入れないっていうのが作風だし、だからこそ「優しさ」のような感覚も残るんだと思う・・・。


結局、最後に行き着くのは「一番得体が知れない怪物は人間でした」っていうオチなのかもね。
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