こなつ

ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生のこなつのレビュー・感想・評価

4.2
イギリス映画史上、最も左翼的な映画監督と言われている社会派の名手ケン・ローチ監督の映画人生を追ったドキュメンタリー作品(2016年公開)

労働者階級や移民、貧困に焦点を当て、社会の底辺に生きる人々の姿を厳しくも温かな眼差しで描いている監督の作品には、とても心揺さぶられる。大好きな監督だ。

本人、友人、仕事仲間、対立関係にある人々、そして4人の子供達と夫人のインタビューは非常に興味深いものだった。
是枝裕和監督が最も尊敬しているというケン・ローチ監督のことをもっと知りたくて、以前から気になっていた本作を鑑賞。
一度は映画界からの引退を表明した監督が、何故再びメガフォンを取り始めたのか、彼の作品に出る俳優達が何故驚く程自然体の演技なのか、そんな疑問が次々と解明されていく。87歳にして今だ意欲的に映画と向き合うケン・ローチ監督の熱い想い。もうすぐ公開予定の新作「オールド・オーク」も楽しみだ。懐かしい映像と共に50年にわたる類まれなその生涯を垣間見れてとても得した気分になったし、感動した。

BBCの演出家を経て映画界に進出したが、決して順風満帆ではなかった。政治的な検閲が原因で長い不遇時代を過ごす。家族を養うため、マクドナルドのコマーシャルなどを手掛けていたと知って驚いた。

自分の撮りたいものにこだわり、キャストの選出も撮影の仕方も独特。それがあの自然な作品、普通に生きる人々のありのままの姿を捉えていると納得してしまう。
なるべく同じような境遇の役者を選び、物語と同じ順序で撮って行く。まだ撮っていないシーンを役者達が想定できないので、その瞬間が全てでありカメラの前の人間性を引き出す事ができるそうだ。

5歳だった次男を交通事故で亡くし今だ癒えない悲しみを語る。普段は穏やかで柔らかい印象の監督だが、作品へのこだわり、挑発的な内面で描きだす物語の素晴らしさ。敵対勢力からイカれていると批判されても貫く信念は、誤魔化しのない現実の世の中を観客に観せようとする監督の強い思いを感じた。何て魅力的な人だろう。

以前鑑賞した監督の作品も含めて、あらためてケン・ローチ作品に触れたくなった。
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