かなみ

桜桃の味のかなみのネタバレレビュー・内容・結末

桜桃の味(1997年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

 自殺を巡る議論をほどほどに繰り広げながら、宗教的・哲学的問いのみの自慰的な作品に留まらず人の心の復元力や全ての他人の生に目を向けるような慈悲深さもある。人生賛歌ではなく、いかに生を長持ちさせるかという点で考えさせられる。
 あのラストで一気にこの作品の娯楽性について俯瞰的に考えさせられる。緩急の付け方がなんとも強引で、でも見終わってみるとなかなか清々しい気持ちにもなる。鑑賞者と映画を隔絶するメタ的な表現においてキアロスタミは群を抜いていると思う。
 主観的なカメラワーク、同情してしまうような寂しげな人間性、しかし自殺の目的や家族構成など、彼の詳しい内情について一切明かされない。映画を見ていくと私たちは主人公に感情移入し、まるで近しい人間になったように錯覚する。この映画では没入した私たちに、その"事実"をありありと見せつける。メタ的視点を与える事で主人公という人間は「自殺しようと苦悶する男」から、「ただの演者」いう簡潔な姿になる。映画はフィクションであって、私たちは物語の鑑賞者である。私たちは必死に生きる人間の人生を見ているのでなく、作り物を見ているだけだ。キアロスタミはその傲慢な認識を気づかせる。
かなみ

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