自殺した後に埋めてくれる人を求めて、ひたすらドライブする男の1日を淡々と描いた作品です。
前半の、岩と土埃しかない荒涼とした丘は、絶望した主人公の心そのものでした。もうその風景に溶け込むしかないかのように、丘の上に自らこしらえた墓穴が彼を待つのですが、なぜか近づくといつも、どこからともなく子犬の鳴き声がする。死だけではなく、命の匂いもする妙な穴なのです。
主人公に色んな道を見せてくれたトルコ人のお爺さんの場面は歌で言えばサビだと思いました。木や泉、色とりどりの花、生きる人々。あのお爺さんは主人公にとってはお医者さんだったはずです。だから、車から降りてお爺さんを追った場面では涙が出ました。
が、やっぱり穴に行ってしまうのですね。この筋書きがもう上手いなと思います。その後どうなったかは神のみぞ知る。
穴から見上げる月も雨も、神様からの美しい贈り物にしか見えないのが、結果よりも大事なんじゃないかと思うのです。
もしかしたら、彼は再び生きるために賭けに出たのかもしれません。もし生き延びて、翌朝お爺さんに起こされたら、その瞬間から別の自分になれると思ったんじゃないでしょうか。
エンドロールに流れるアンニュイなセントジェームズ病院が沁みました。死んだ恋人に会いに行く歌ですから、やっぱり、死んでしまったんでしょうか。いや、生きていると信じたい。
一度も映されてないはずの、アフガニスタン人のオムレツが美味しそうで忘れられません。
この年になってようやく、かの有名なアッバス・キアロスタミ監督作を見てるわけですが、良すぎて全部満点にしてしまいそうです。