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桜桃の味のfleurのレビュー・感想・評価

桜桃の味(1997年製作の映画)
4.8
黄金色の草原と砂埃の黄色い道をくねくねと行く。最初は兵役中のクルド人の青年、次はアフガニスタンから来た神学生の青年。"仕事"を依頼するもどちらにも断られる。神学生が神の教えをもとに説得を試みていて、よかった。けれど今は君の舌はいらない、と言われてしまって口をつぐむ。車がストックした場面、ぽつぽつと見える工事する人々の作業着の青に段々畑のような道の側面が絵のようで、横から撮られたその構図が素晴らしかった。
最後に声をかけたのはおじいさん。少し経つまでどんな人なのか容貌がわからず、声だけ伝わってきたの印象的だった。「黙っていては誰も助けられない」と諭すおじいさんは桑の実に命を救われた話をする。太陽のまろやかな陽光に照らされた黄色と赤色の木々の葉、おじいさんが勤める自然史博物館の切り絵のような文様の門、沈みゆく夕日とその光に照らされた砂の靄がかかったぼやけた色合いの街、顔に落ちる西陽。どの情景も何気ないのにとても美しかった。
日が落ちた夜の道は真っ暗。特に穴までの道は闇のなかでタクシーの蛍光灯とヘッドライトが見えなくなると、画面は真っ暗闇に包まれる。遠くの街は青白い光がイルミネーションのように光っている。月明かりの青白い夜。犬の吠える声と遠くで雷の音がする。夜が明けるとそこは撮影の裏側への切り替わり、撮影クルーは休憩に入り映画が終わる。きっとバディさんは空を見て夜を明かしただけで、また来る日を迎えたのだろうか。
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