アルカディア

桜桃の味のアルカディアのネタバレレビュー・内容・結末

桜桃の味(1997年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

名作だ...。

ラストシーン、考察をいくつか読んで納得しました。
アッバス・キアロスタミ監督、存じ上げていませんでしたが、映画監督というよりも芸術家、アーティストと呼んだ方が相応しいような気がします。

恐らく主人公は初めから死にたくなかったんだと思います。
というか、自殺したいと願う者はみんな本当は心の底で死にたくないと願っているはずです。
死ぬのが怖いから自殺したいと周りにほのめかし、他者から注目を集め助けて貰おうと願う。
まるで赤ん坊が母親から気を引こうとするように!

映画内でも、死にたくないことを決意しているような描写が散りばめられているように思えます。

例えば、土や砂が流れるのを眺めるシーンとか。あれを見れば誰でも段々死にたくなくなってくるでしょう。

キアロスタミ監督は、映画の登場人物に感情移入しすぎるのはよくないという考えを持っているそうです。

理由は、観客は映画内の登場人物に感情移入しているつもりでも、実際にはその登場人物とは違う、監督や脚本家がつくった架空の登場人物、つまりは誰かの主観に従っているに過ぎない事になるから。

その考え方がラストシーンに集約・反映されている、芸術性が高い映画です。

映画は、映画をただ見るだけで何かを与えて貰おうとするような受動的なものではなく、自らが自らの人生に生きる意味を与えるように、観客に思考の余地を残して、その思考のプロセスに価値を見出すのが大切なんじゃないかと思いました。

"生きることの素晴らしさ"のような、誰もが共感できるメッセージを内包しながらも、ラストシーンが象徴するように、それを表現する手段は誰も想像できない程自由にするという、映画という媒体を通したアーティスト的な創造性の高さ、作品の創り方に脱帽です。