のすけ

桜桃の味ののすけのレビュー・感想・評価

桜桃の味(1997年製作の映画)
4.1
1997年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品。

運転する車に人を誘い入れては「明日の朝、穴の中に横たわった自分に声をかけ、返事があれば助け、返事がなければ土をかけてほしい」と奇妙な依頼をする中年男のバディ。自殺願望男の運命は‥

バディはいろんな人にお願いするも、皆自殺に対して嫌悪感を示しやりたがらない。
しかし最後のある老人との出会いが運命を変える。
老人との長い会話シーン。引きで車が走るシーンをロングショットで撮っていて、何もない砂山と車と字幕のみが映し出される。
皆が自殺そのものについて語る中、老人は今いる素晴らしい世界に目を向けるよう話しをする。その中で四季の話から桜桃が出てくる。
四季と同じで、人生にはいろんな局面があるが、それは移り変わっていくもの。辛い局面しか見えなくなり生きることの楽しみや美しさをすべて捨ててしまうのか、『死』という一つのことにそんなに執着しなくても、四季のように人生(世界)は巡る。自殺しなくてもやがて死は訪れる。その前に人生を味わうことを諦めるのか?と言っているようだった。

シンプルな構成、画もシンプル。
でも観終わったあとに印象に残る不思議。
なんと言っても「えっ?‥」のラストシーン。こりゃ賛否両論だろうなー。ラストで急に画質悪くなってびっくりしました。自分は好きだったけど、まあでもほとんどの人が「否」だろうな‥。とりあえず意味不明だし。「ちゃんと最後締めてくれよ!」的な感じになるかと。

唐突にやってくるその不可解なラストは、常日頃から映画の登場人物に感情移入することは危険と考えていたアッバス・キアロスタミ監督らしいラストなのかな?と感じたので私は好きでした。
映画が物語を語ること(物語性)すらも否定していたらしいアッバス・キアロスタミ監督。
ラストを観客にぶん投げるどころか、自分の作品を長時間観せておいて最後の最後に「お前ら現実に戻れ」と言わんばかりのラストシーンを持ってくるのは、あえて空白部分を残した不完全な作品を作り上げ、そこに観客を介入させることで観客が物語を作り上げていくことを望んた結果なのだろう。
それにしてもあれだけ没入させておいて、作った本人が最後にそれをぶっ壊すって前代未聞だなと感じた。私はあのラストで点数上がってしまった少数派?でした。
結末は分からないが、山肌の色を見てなんとなくそういうことなんだろうと思うようにした。

シンプルにして一筋縄では行かない名作。