余計な装飾を排したミニマルな人生讃歌、といった趣。シーンの多くがドライブする車内での会話というのは新鮮。
ロングショットで捉えられるイランの夕方の休日を切り取った風景は美しく、なぜか郷愁を誘う。
作為的なBGMはラスト以外採用されておらず、代わりに兵卒の掛け声や工事現場の音、遊ぶ子供達の声や鳥の鳴き声や雨風の音など日常のなんでもない音が強調されて聞こえてくる。
クライマックスでは画面が暗転し自然音だけしか聞こえなくなる。
劇中で語られるようにヒトは誰しも悩みを抱えていて、その悩みを他人は理解し同情も出来るだろうが、同じ痛みを共有はできないかもしれない。
それでも、何でもないことに喜びを見出せるこの世界は生きるに足るのだというメッセージは、シンプルだが力強い。
生きる喜びを説くおじいさんが突然出現したのはどのような意図だろう?
最後に映されるのは本作のメイキング映像というのもユニークな構成。作っている皆が楽しそうで、虚構を超えて人生を肯定してくる点に制作者の拘りを感じた。
※レビュー参照後追記
余白を残して結末を断定せず、観客に意味や解釈を任せる作りはキアロスタミ監督の作風らしい