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ニア・ダーク/月夜の出来事のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 アメリカ南部テキサス、太陽が夕闇の空に消えていく頃、ケイリブ(エイドリアン・パスダー)は仕事の疲れを癒しに街へと急ぐ。牧場の馬主を務める父親ロイ(ティム・トマーソン)との昼間の作業を終え、一杯呑もうと街の酒場へ繰り出す。酒場の前には馴染みの友人たちがたむろするが、今日のケイリブはどこか不機嫌で愛想がない。呑み屋に入らないまま、男は友人に言われるままに後ろを振り返る。10m先の路上にはソフトクリームを舐める少女メイ(ジェニー・ライト)が立っていた。ブロンドの髪にすらりと伸びた長い脚、ソフトクリームを舐める舌先を見たケイリブは一瞬で恋に落ちる。彼は女を自身の車で送るよと約束し、深夜の田舎町をドライブする。テキサスのスイート・ウォーターから来たメイと言う少女は、しきりに時間を気にしながら、「夜を見せたい」と呟く。ケイリブの口づけを拒否し、女はケイリブに連れて来られた牧場へ、馬が苦手なのと呟いた女は男からの求愛に我慢出来ずに熱い抱擁を交わす。だが次の瞬間、女の唇が首元を這うと突然皮膚を引きちぎる。ケイリブは突然のことに驚きが隠せないまま、父と妹サラ(マーシー・リーズ)の待つ牧場へ、しかし足元が覚束ない彼を時速90kmでやって来たキャンピング・カーが父親の目の前で強奪する。

 トム・ホランドの85年作『フライトナイト』やジョエル・シュマッカーの87年作『ロストボーイ』など新味を打ち出した80年代ゾンビ映画の決定打として登場した本作は、ただの恋愛映画に思えた冒頭の展開から、吸血鬼の種族の主人公の強奪により、思わぬ展開を見せる。テキサスから更に田舎町へと歩みを進める物語は、吸血鬼のロード・ムーヴィーの様相を呈する。当初、頭数に入っていなかったケイリブは、メイの恋心(愛の衝動)により一族に迎え入れられるが、リーダーのジェシー(ランス・ヘンリクセン)を筆頭とした吸血鬼の一族は彼の来訪を快く思わない。ケイリブのある夜の行き過ぎた恋心が引き起こした悲劇は、彼が人間と吸血鬼の間で葛藤しながら、母親のいなくなった牧場の未来を憂う。メイの美しさに惹かれながらも、一貫して妹のサラを想うケイリブの父性は、やがて吸血鬼一家のホーマー(ジョシュア・ミラー)の母性を追い求める姿に合致する。終盤、ケイリブの捜索に当たった父親ロイとの偶然の再会や、地下での闇の輸血により吸血鬼から随分あっさりと人間に戻る描写など、脚本上の設定は稚拙で難はあるものの、当時ラブラブだったジェームズ・キャメロン組の利点を最大限に発揮し、ランス・ヘンリクセンのビショップ、ビル・パクストンのハドソン、ジャネット・ゴールドスタインのヴァスケスと『エイリアン2』の最前線の兵士を3人もちゃっかりと召喚する。太陽の光を浴びた吸血鬼たちが次々に燃え拡がるクライマックスの描写は今観てもやはり胸に響く。
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