せみ多論

クワイエット・プレイスのせみ多論のレビュー・感想・評価

クワイエット・プレイス(2018年製作の映画)
4.0
観たのは公開当時。

一緒に鑑賞した相方は好みではなかったそうだ。

当初自分が感じたのは危機的状況なのになんで子作りなんかしとるんだろうという疑問と、おじいさんのシーンの衝撃。

ただ改めて考えてみると、妊娠という状況は全く愚かしくないんだろうと思う。

音を立てられないという危機的な状況だから、赤子を作ることが愚かだというなら、未来はどうなる。いつ終わるとも言えない状況の中でも生きていく選択をとっているならば、子孫を作ることは至極当たり前だ。シチェーションのみを限定してみれば愚かしく見えるかもしれないが、それは映画を観ている側だからこその傲慢さだろう。自分の当事者意識の欠如だったと思う。

個人的にはラスト周辺の親子のシーンよりも、おじいさんのシーンが泣けてしょうがなかった。恐らく老夫婦ふたり、支えあいながらひっそりと生きていたのだろう。そんな愛する人を失った彼のあの最後の表情がずっと忘れらない。皺だらけの顔をくしゃくしゃにしたあの叫びは魂の叫びだと思う。もうこんな世界に未練がないと感じた彼の、最後の反抗心や意地だと思う。このシーンだけでこの映画が好きだと言い切れる。

やはり自分の好きな映画は、トータルの出来やおさまりの良さや、矛盾のなさとか、そんなもんじゃなく、シーンやワンカットで心を掴んでくる映画だと、改めて思う。
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