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ブレス しあわせの呼吸のrage30のネタバレレビュー・内容・結末

ブレス しあわせの呼吸(2017年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

首から下が麻痺してしまった男性の話。

アンディ・サーキス初監督作品という事で気になって見てみたのですが、思いの外にオーセンティックな、普通に良い作品で驚かされました。
所謂、難病モノでありつつも、必要以上に湿っぽくはならないし、むしろユーモアが沢山ある、楽しい作品でもありましたね。

主人公はほぼ全身麻痺の状態からテクノロジーによって、外の世界に飛び出し、自らの世界を拡張していきます。
この辺はモーションキャプチャーというテクノロジーによって、役者としてのキャリアを切り開いたアンディ・サーキスとも重なる様で、興味深く見てしまいました。

個人的に好きだったのは、彼が入院後、初めて家に帰るシーン。
救急車の狭い車内からカメラが彼の視点に切り替わり、綺麗な青空が映される場面は、自由や解放感が伝わってきて感動してしまいました。
他にも専用の車を作る場面での、狭い車内からカメラが空撮に切り替わる場面も爽快感があって、アンディ・サーキスの監督としての手腕を実感させられます。

あとは「見世物みたい」と揶揄する人に対して、「僕の苦悩はあなた方より遥かに深い」と言い放つところも好きだったな~。
過酷な現実を生きる中で育まれたであろう、キツいジョークや独特な物の見方は面白かったし、それ故に彼が人気者になるのも納得してしまいましたね。
アンディ・サーキス自身も障害をもった姉がいるとの事で、だからこそ、偏見を感じさせない、魅力的な人物として主人公を描けたのかもしれません。

映画の終盤では、主人公の最後…尊厳死の問題まで触れられます。
正直、この件は冗長だし、映画のトーンが一気に暗くなるので、ちょっと余計に感じてしまいました。
おそらく、その直前の段階で終えても成立するし、その方が良い気持ちのまま映画を終える事が出来たでしょう。
それでも、この件を入れたという事は、作り手達に強い想いがあったという事です。

この映画が描きたかったのは、“障害者の自由”であり、“生きる喜び”だと思うんですよね。
例え、首から下が動かなくなっても、人は外出出来るし、海外にだって行けるのだと。
そして、主人公が「生存する事と生きる事は違う」と語る様に、生きるという事の意味を考えさせる作品でもあります。
であればこそ、彼が死を選ぶ事もまた彼の自由であり、生に対して自覚的である事は、死に対しても自覚的である事と同義なのかなと、個人的には思いました。

勿論、これらの事は障害者だけでなく、健常者にも当てはまる話ですし、「自由とは何か?」「生きるとは何か?」という普遍的なテーマを改めて考えるキッカケとなる作品でしょう。
また、デビュー作には監督の全てが刻印されてると言いますが、本作もまたアンディ・サーキスの人生やキャリアが刻印されている様で、そうした視点からも楽しめました。
役者としてだけでなく、今後の彼の監督作品にも注目していきたいですね。
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