Shiro

フジコ・ヘミングの時間のShiroのレビュー・感想・評価

フジコ・ヘミングの時間(2018年製作の映画)
4.0
人生は時間をかけて私を愛する旅というフジコ・ヘミング。映画は、彼女がこれまで過ごした時間や場所を車窓から眺めるかのように進んでいく。京都、ベルリン郊外の小さな町、パリ、下北沢、サンタモニカのそれぞれに家を持つヘミング。ずっと年下のゲイのカップルの男の子2人と毎年パリで年を越す。いつまでも若い証拠だと思った。どこか孤独なようにも思えるけど、旅を続ける彼女はもうそんな境地にいないのだろう。彼女を待つファンは世界中にいる。そして彼女はまた、何よりも1人の時空を大切にする。伝記とかじゃなく、住んでいた部屋を残したいというのはその現れだと思う。小さい頃からそうやって自己を確立し、その中で年を重ねながらずっと少女であり続ける。もうすぐ死んでしまうのが悲しいと言っていた。
ラ・カンパネラを弾くと、難しさで必死になる分、その人の覚悟や日々の行いがすっかり滲み出てしまうらしい。わかる人にはね、とのこと。そのシーンは上からのカットで指の動きを追う。全体を通して取材者と対象者の信頼関係も伺えた。音楽はほとんどフジコの演奏だけど、唯一京都のシーンだけ三味線。統一感の中で少しもったいない気もした。
映像がとても綺麗。フジコの14歳の絵日記と交互に進んでいくのも、徐々に紐解かれてゆく感じでよかった。
最後に、彼女からはもうすでに死の匂いがするように思えた。夢には死神でも出てきているんじゃないか。その前でため息でも弾いて、その死神が舞踏する。
修理に出していて戻ってきた、母のピアノが物凄くいい音に聞こえた。
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