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トップガン マーヴェリックのSSSのレビュー・感想・評価

5.0
1986年に公開された『トップガン』はトムクルーズの出世作であり、豪華なミュージシャンを起用したサントラや海軍全面協力の元に撮影された戦闘機の映像や甘酸っぱい青春ドラマにより後世に名を残した。ただ、実際のところ本作は批評的観点から評価されていたかというおそらくそうではない。青春映画という性質上、仕方ないが生意気なピートことトム・クルーズは直情的過ぎて子供にしか見えず軍人失格にしか見えない。ライバルであるアイスマン(ヴァル・キルマー)が正論しか述べてないので余計にそう見えてしまう。ヒロインも薄っぺらく、ロマンスシーンはミュージックビデオそのもの……と個人的には空撮シーンは大好きだったけど映画として見るかったるい過大評価な作品というのが前作への印象だった。
しかし、前作から36年もの期間を経て公開された本作はまるでウィスキーが熟成されて味に深みが出たように俳優トム・クルーズ自身に深みが生まれたことで唯一無二の味わいがある作品に仕上がっている。
前作の出来事以降もパイロットとして第一線で活躍し続けるも、軍の上官との対立し続け、居場所を失いつつあるピートはハリウッドにおけるトム・クルーズそのものである。
序盤の超音速飛行機ダークスターでマッハ10を超え、さらにその先を目指そうとするトムの無茶をハラハラと見守る周囲は間違いなくミッションインポッシブルなどで無茶なスタントを自身で行うトムに対する製作陣や観客の反応そのものだ。
また色んな登場人物から「その(ニヤけた)目つき」について指摘されるがこれもトムが感情豊かな演技はあまり行わず、よく言えば不敵な、悪く言えばニヤけ面であることを自虐的に「いつも通りである」と返している。
そんなピートがアイスマンの前でどうしたらいいかわからないと心情を吐露して涙を流すシーンは作中だけでなく、時間と共に老いていき今後も同じようにアクションに身体を張れないであろうこと自覚しているトムの本音でもあるだろう。ヴァル・キルマーは咽頭がんで以前のような声を出せなくなっているが本作にカムバックを果たしている。そんな彼の姿をみて、私は前作への印象が「空撮シーン以外はミュージックビデオのような空虚な作品」から「二度と戻れぬ輝かしい青春時代の一コマ」という良い意味でアップグレードされた。これは『クリード2』でドラコを掘り下げたことによって公開当時は駄作だった『ロッキーⅣ』のドラマに深みが増したのと同様の事象だ。

空撮シーンも前作からかなりパワーアップしている。CGを使わないで俳優を搭乗させて臨場感をだしつつ、きちんとドックファイトの位置関係が把握しやすい画作りが心掛けられている。クライマックスは『スターウォーズ』におけるデススター攻略作戦と全く同じ展開だが、王道こそ覇道といったかのように丁寧に積み上げられた演出により映画的快感につながっている。

自分の人生がピークに達し、あとは徐々にフェードアウトしていくことは承知の上だが居場所がなくなるのは「今日じゃない」以上、飛び続ける…本作は俳優トム・クルーズの総括であり、所信表明でもある。イースト・ウッドにとっての『許されざる者』や『グラン・トリノ』のような作品でもあった。CG一辺倒の大作とは真逆に実写撮影にこだわり、中国市場重視の潮流に逆らい中国で上映禁止となり、コロナ禍でストリーミング重視の潮流に逆らい「映画体験は大画面でないと意味がない」と劇場公開に拘ったトムこそが古き良きブロックバスター作品の体現者となった今。一観客としてトムの試みを応援したいし今後も元気に活躍することを祈ってやまない。
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