ひれんじゃく

トップガン マーヴェリックのひれんじゃくのレビュー・感想・評価

4.8
なんだかよくわからないけどメチャクチャ良くて呆然としながら久々に映画館を出た。マジでそれに尽きる。なんだこれは。ネタバレしてるよ!



















 どこがよかったのかを説明しろと言われても困っちゃう。全部どこかで見たことのある展開だし、王道も王道で一歩間違ったらダサさの極みみたいになってるから。でも良い。良いという言葉で満たされている。えもいわれぬ満足感。説明のしようがない。強いてよかったポイントを言語化して挙げるとするなら7点。

①オープニングで予告もなく浴びせかけられるDanger Zone
 わからないとか言ったけど要因のひとつとして確実にあるのはこれ。マジでこれ。これすぎ。虫の知らせか数日前にたまたまYouTubeのおすすめでDanger Zoneを聞いてしまい、「トップガンの曲じゃんこれ!!!こんなタイトルだったんか!!!」と認識してしまったのも運の尽き。まさか2022年にもなって80年代みたいなムーブをとってはくるまい、この歌も流すわけ…と思っていたらこれですよ。ンギャーーーーーーー!!!!!!!オープニングの時点で脳が勝手に「これは良い映画だ………」と陶酔しすぎたあまり手が滑って処理を間違えたとしか思えない。どうしようしばらくDanger Zoneしか聞けなくなっちゃったぞ。頭の中のYouTubeが永遠にループ再生を始めてしまって止められない。どうしよう。

②「先生は教えられる側でもある」という描写があったところ
 俺なんかが教えられるわけ…といじけてたマーヴェリックだけど、ただ単に熱血指導で精神論を説くんじゃなくてチームワークの大事さを教えたりやりゃできるよ!!!!と体を張って実践したりとメチャクチャ徳の高い教師ポイントを稼いでいた。しかも後半で自分が教えた言葉をそのまま返されて奮い立ったりと王道なんだけど「一方的に教えるだけじゃなくて教わる立場にもなるのが教師ってもんじゃないのか?」ってなるのが個人的にはすごく良かった。ただ生徒にやらせるだけじゃなくて実際にお手本を見せてくれるし共に歩んでくれる系教師……………………………そしてピンチの時でも自分の立場の高さや経験値に驕らずに学ぶ(学び直す)姿勢…最高じゃんか……

③敵がうまくぼやかしてあったところ
 特定の国を敵視せずに漠然と敵が設定してあったところがすごくよかった。ステレオタイプ的な見方に陥るのを自然と防げるし、余計なことは省きました!!!!という感じが伝わる。もうみんなこんな感じでいいよ。どっかの国を悪者にするんじゃなくて。

④やたらと死に近いトムだったところ
 トムの出演作は(ミッションインポッシブルとかそこらへん)「トムクルーズだから絶対死なんだろ!!!!」と安心が担保されてるところが長所であり短所であったんだけど、今回メチャクチャ死の匂いが漂ってきませんでした???気のせい???やたらとマーヴェリックという男、そのまま空へと飛び立って帰ってこない感じが出ててうろたえた。全体的に前作での戦友の死、今作でのアイスの死、そして戦闘機パイロットの死というものを身近に置いててよかった。それにより加わった重みが個人的には心地よかったので。お前はこのまま音速で空へと溶けていってしまうんだなと本気で思っていたしそれをどこかで望んでいたすらある。だけどここで散ったら②のいいポイントが半減してしまっていたのでこのオチでよかったな。

⑤ハンスジマーの音楽
 ところどころでRUSHがチラついた。盛り上げ方が相変わらず天才。人間の作った機械が主役の作品×ハンスジマーはもう負け知らずですよこんなん。太くてデカい音楽と戦闘機のエンジン音、飛行音を浴びせられ続けてあまりの良さに呆然としてしまった。そして多分だけど冒頭の整備シーンは出撃のシーンだったってことだよね…?ご機嫌にDanger Zoneが流れてたシーンは実は生還できるかわからんミッションに行く直前の場面だったってことだと思っている。そこにハンスジマーのぶっとい音でDanger Zoneのワンフレーズを捩じ込まれて泣いた。やることなすこと全てが天才すぎる…………………………………………………………

⑥画のキマり具合
 いちいちビシッとしててえもいわれぬ良さを感じてしまった。任務を言い渡されて戦闘機を横目にどこまでも続く道をバイクでぶっ飛ばすシーンとかあまりにも………………出撃直前に空母の甲板に戦闘機が下から迫り上がってくる構図とかメチャクチャ決まってたし。あとはやはり戦闘機のシーン全てか。どんな動きで何をやってるのかが天才的にわかりやすくて感動したし緊張感が半端なかった。敵味方のもの含めてこんなに戦闘機の動きに美しさを感じたのは初めて。

⑦古いものはやはりいいと言い切ったところ
 始まり方といい昔のジャケットに昔のバイクで走り出した時はマジ??!!?!!!?!!!と咽せてしまったし、話も王道すぎてあまりに捻りがないと言えばそうなんだけど、やっぱり古いものっていいよなあ!!!!!「パイロットが絶滅するのももう近い」のアンサーとして「昔乗ってた相棒で死地を潜り抜けて生還する」のがメチャクチャ良すぎて唸った。話の流れもそうだし差し込まれる音楽もデヴィッドボウイにマークボランにThe Whoにと言葉が悪いけど懐古厨もいいところ。でも恐ろしいほどピッタリ合っていたんだよなあ。いくら新しくて優れているものが今後ボンボン生まれてきたとしても、古くて「劣っている」ものを討ち滅ぼすことは決してできない、そこにどこか勇気づけられる面を感じてしまった。なぜか。

 気づいたら7点も挙げていたけど、これが今もなお残る余韻のわけを全て説明し尽くしているかというとほど遠い。画面構成と音楽という感想に残しにくいものに感銘を受けたのはわかったけど、それだけではない気もする。

 そして結局捻りのない昔ながらの話で演出とかも前作の雰囲気を引きずっているくせに、古臭さとか押し付けがましさを妙に感じない。なんでなのか本当にわからない。何度でも言っちゃうけどこんなにベタベタの作品になぜここまで感動しているのかよくわからない。マジでなんでだ。言語化することはもう諦める。「よくわからないけど奇妙な満足感を覚えてしまった」、この事実だけでこの作品は私にとって充分素晴らしいものだと言い切れる。それでもういい。語り得ぬものには沈黙するしかないがため。
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