ナミモト

金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのナミモトのレビュー・感想・評価

3.5
「関東大震災の際に朝鮮人虐殺は無かった」などと、政治家が絵空事を言うような時代。自分たちにとって都合のいいように、自分たちが信じたい方向に歴史を改竄しようと政治家が動く時代。
過去に、無名の尊い誰かの血が流れ、数千人の惨い死があった事実は決して変えようが無く、その冷徹で残虐な仕打ちをした国民と同じ平地で生きる者であるという反省のもとに常に立脚しなければならないことを訴求してくる作品です。
無政府主義者であった、朴烈と金子文子。
彼らが大逆罪となることは不当な判決以外の何ものでもないのですが、当時の日本の官僚政治の根暗さ・いやらしさ・冷徹さがじわじわと描かれ、彼らは罪人とされてしまう。
「時代が悪かった」なんて、外部環境のせいとか、そういう話ではおそらくなくて、この官僚政治の恐怖は、今の日本の政治にも通じてくる怖さがあります。「過程は合理的に。結果は決まっている。」という台詞がありますが、緊急事態宣言下で五輪を強行する姿勢にも通じますよね。官僚が決めたシナリオを変更するつもりは無い、結果は決まっているのだからただ従え、という。従えないのなら立場を剥奪するぞ、という暴力。一体、こうした不当な態度が横行する今の時代、どこが民主主義なんでしょうね。過去20年を振り返り、政治を行う者の心根がこの当時からさほど変わっていないと思われる事が、同じ国に生きる者として結構ショックです。だからこそ、本作が扱うテーマが重く響いてくるのですね。
本作で惜しいのは、こうした日本政府に無政府主義者として対立した際の朴烈と金子文子が実現したいと願った社会の絵姿があまり伝わってこなかった点でしょうか。もちろん、非人道的で人権無視しまくる日本政府が国際社会の基準において著しく低い思考と対応である事は分かるのですが(今もですけどね)、批判だけしているように見えてしまっていたような…。まぁ、本来ただの人である天皇を現人神と崇めて、他民族を迫害する事に躊躇がない国民が完璧な正常さを持ち合わせているとは思えないので、この点はあまり気にしなくても…なのでしょうか。
韓国の革命もの作品は、ぐぐっと盛り上がりが明確にあるような胸熱な作例が多い(あと、拷問がほんと痛そうな作例も多い)中では、大人しめな作品かもしれません。
ただ、2000年代の日本映画の一部が、永遠の0とか男たちの大和とか、戦争美化傾向にあるのは絶対に許されない事態なので、やはり海の向こう側から見た日本の視点は忘れてはならないと思います。
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