湯っ子

寝ても覚めてもの湯っ子のレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.3
「ドライブ・マイ・カー」の予習として、濱口竜介監督作品を観たくて。

主演のふたりのことは、私ももちろん知っているが、もうだいぶほとぼりも冷めた頃というのもあり、特に嫌悪感などは感じずに観られた。
東出昌大は、「桐島、部活やめるってよ」の時から、のちに棒と揶揄されるその空虚な感じが彼の持ち味だと思っていた。私は、彼は役者としては悪くないと思う。
唐田えりかは、大きく光のない黒い瞳がほら穴のようで、やはり何か空虚な感じ。おとなしくて、可愛らしい容姿で、何が好きでどんな性格か、みたいなことがよく見えない。
空っぽなふたりが、相手の匂いみたいなものに惹かれあう。性格が良さそうとか、気が合いそうとか、肩書きなんかは全く関係ない。お互い見た目が良いので、それは惹かれる要因のひとつだろうけどそれだけじゃなくて、恋に落ちるのが「理屈じゃない」ということを表現するのにうってつけだし、彼らに感情移入させない(できない)ことが、結果的に恋愛の不可思議さを演出することに効果的だと思った。
それに反して、彼らの友人たちを演じる役者の達者なこと。特に、瀬戸康史の演技は初めて観たのだが、ひねくれて拗らせた照れ屋の男の役がとても良かった。脇を固めるのが良い役者だし、役柄もいわゆるまともな人々なので、主演のふたりをよく引き立たせている。

恋愛というのは、自分の心の中にいるアニマあるいはアニムスを相手に投影しているだけ、というのはユングの説だが、それで言うと、まさに朝子は「麦」というアニムスと決別し、「亮介」という実体を持つ男と向き合った、と考えても良いのかもしれない。

ちなみに、この朝子という子、一緒にいて楽しいのかな〜。なんかはっきりしないし暗いし。
でも、現実でも意外とそんな子がモテてたりするよね。朝子をそばでものすごくサポートしてくれる友達もふたりとも快活で頼もしくて、なんでこの子と仲良いのかな?とも思った。
あと、朝子が麦に恋した時、「むぎ、と書いてばく、と読むのがかっこいい」みたいなことを言っていて、岡崎京子の「私は貴兄のオモチャなの」を思い出した。私はこの映画、好きです。



2022.4.19追記
東出昌大がスキャンダルを逆手に取った?かたちで役者として評価されているのに、唐田えりかはまだカムバック出来てない…濱口監督は、その魔力を行使してしまったことをつぐなうために、本作の続編をオリジナル脚本で書いて撮ったらどうかしらん。私は絶対観に行くけどな〜。
湯っ子

湯っ子