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寝ても覚めてものhoshのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.4
運命的な出会いから愛しあう朝子と麦。しかし麦は突如として姿を消す。数年後、朝子は麦と瓜二つの亮平に惹かれていき…濱口竜介監督作品。

「画」を見つめること、それで語ることと、見る前の自分が想像もしなかった全く未知の領域に連れていかれることが映画の醍醐味とするならば本作は目眩がするほどの完成度だと思う。一見何気ない生活風景や人の対話、恋情がゾッとするほどの強度のショットと演出によって全く違う顔を見せる。ソリッドすぎる…

目線の映画だと思った。朝子と亮平、付き合ってからもなかなか目が合わない。亮平が朝子を愛しそうに見つめる時、朝子の目線は伏し目がちだったり。そもそもこの2人の会話はカットで割られることが多く、なかなか同じフレームにも収まらない。
2人がどこで目線を合わすか、同じ画面に映るか、同じ方向を向くかがサスペンスとなっている。例えば朝子が亮平に麦の話を打ち明ける時は同一画角にいるので、ドラマが動くとわかる。
これに注目するとあのラストの切れ味たるやとんでもないのよな。やっと同じ方向を向いた2人。その関係は…っていう。画と演出で語るとはまさにこのこと。超映画的。

亮平が愛おしく朝子を見つめる目線と、朝子が麦をうっとりと見つめる目線は同じ。それは決して交わらない残酷さね。男性の方が幻想ばかり見てしまう生き物と思っていたけど、当然女性だってその側面はある、っていう事実に気付かされた。

それから濱口作品は『ドライブ・マイ・カー』しか観られていないが本作もやはり声の映画だと思った。『ドライブ~』は機械的な台詞回しが温度を帯びていく過程が物語の山場と直結していた。
本作は朝子と麦だけがずっと浮ついた異質なセリフ回しと発声で人間的な温度を終盤まで帯びない。これは瀬戸康史や山下リオらが実生活っぽいセリフ回しをしてるから余計際立っていて。ずっと夢の側にいる麦と朝子/ 現実の側の亮平と朝子の対比。濱口監督、恐らく発音/発声のフラットさ、異物感でサスペンスやドラマを作り出す人なのではないかな、と思った。

堤防を見つめるシーンやお母さんの朝ごはんの話など他の場面も強烈。ハッキリ言って朝子は狂人だし、1mmも共感はできない。けれど、人間のエゴをこれ以上ないほど描き出しているように見えた。人物や感情を記号化していない。それはまるで流れる川のごとし。ゆえにあのラストはとても誠実だと思う。
『めまい』『ゴーン・ガール』『溺れるナイフ』『愛がなんだ』『わたしは最悪。』
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