えいがのおと

寝ても覚めてものえいがのおとのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.0

愛と恋の見本市
単純で通俗的だけれども、難解で破壊的


本作は、芥川賞作家、柴崎友香の同名小説の映像化。
監督は「ハッピーアワー」などで話題を集めた濱口竜介で、初商業作品でカンヌ映画祭にも出品された。
こうした事前情報に負けて劣らぬ完成度で、映画好きなら展開に賛否あれど、一定の満足感を持って劇場を後にすることができるだろう。


2時間の制約もあって、複数のキャラクターの統合や細かな描写の削除などもあったが、大まかなストーリーは原作通りに進んでいく。

運命的な出会いをしたものの途端に消息が途絶えた麦を忘れられない朝子の、全く同じ顔をする亮平との恋愛が描かれる。

原作における繊細な設定や関係性については分かりやすく整理されているが、その一方で、映画的に歪さを含んだ表現が随所に見られる。
また、原作では朝子の主観で物語が進んでいくが(だからこそ重要な展開があり原作は面白い)、映画では客観、もしくは、亮平主観で物語が進んでいく点は大きな違いである。

こうしたものは、多くの原作ものがそうであるように、監督ら制作陣との原作解釈の対話と感じると、原作既読者でも何ら問題なく楽しむことができる。
個人的には、朝子という人物の一つの回答を得たように感じられて、とても満足であった。


映像的には、シンプルな設定と衝撃的な展開を内包している割に、それらを感じさせない不穏な画面作りでたまらなかった。
恋愛モノでありながらも華やかさのない様は、物語の非現実さを私たちと地続きであるのだと感じさせる。
そのため、分かりやすく整理された設定は、現実ではあり得ないだろうが、その要素は全て自分たちの中に秘められたものであることに、鑑賞後、自覚的になる。


tohubeatsの劇伴は自然で、主題歌も心地よく歪で、作品を上手く彩っていた。


物語の終着点には、賛否があるのだろうが、自分としては、こちらこそが良いだろうし、それが人間だろうと感じた。
愛している人にオススメしてはいかがだろうか。