こーべい

寝ても覚めてものこーべいのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.7
万人受けはしないと思うが個人的に今年No.1邦画。
カンヌでの高評価という情報だけを頼りにしたミーハー鑑賞で、大して期待してなかったのでビックリした。
地味で静かな映画なのに、二時間緊張が緩むことはなかった。

愛した人が突然いなくなり、残された者がその陰を追い続ける「蒸発物」。
女の盲目的な愛が生んだミステリー。いや、後半はほぼホラーと言えるほど、狂気に満ちている。

愛が深くなりすぎて自分で制御できなくなる様が怖い。本人はいたって真剣なところが余計に怖い。
狂気なのだが、安っぽい泣き叫びがないので背筋ゾゾ〜系の怖さ。

大阪編や東京に舞台が移ってすぐの前半は、
「そんな現実離れしたことあるわけないやろ〜」
的な、ほのぼのした突っ込みを心の中でしているのに、徐々にそのおかしな現実がフックになって糸が結ばれていき、最後は全編をリアルに成形していくのが凄い。
形作られていくのに、最後の最後までどんな形に落ち着くのかわからないスリリング。
見終えて振り返れば、端々のおかしな現実は、誰しも猛烈な愛を経験したときに味わうリアルとして腹に落ちていた。

私、本当におもしろい映画みたりするとアドレナリン大量放出のせいで、脳がヒリヒリ痺れる感覚を覚えるのだけど、中盤から後半にかけて加速するサイコモードで、久しぶりにこれを味あわせてもらえた。

東出昌大目当ての女性客も多かったようだが、自分は、淡々とした演技の中に執着心を燻らせた唐沢えりかの演技が最高だと感じた。
知らない女優だったけど韓国では既に人気あるらしい。透明感がやばい。

濱口竜介監督は、初の商業映画とのこと。
妄想なのか現実なのか、どっちかわからなくなりそうな、地に足が着いていない雰囲気最高だった。
何気ない映像もものすごく好み。
東北の防波堤のあたりそっちの世界に引き摺り込まれそうな錯覚すらした。
それを助長する音楽のセンスも光っていた。
ひとつだけ注文をつけるとすれば、後半もう少しコンパクトにしてくれれば更に余韻を楽しめたのに、ということくらい。
たまらない世界観を見せてもらえてお礼を言いたい気分。
早くも次作を楽しみにしている。