曇天

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法の曇天のレビュー・感想・評価

4.5
「大人が観ても面白い」ならぬ「子供が観ても楽しめる」映画。
なぜならずっと子供の目線でカメラを追っていて、犯罪に関わる部分は映像では映らないから年齢制限もクリア。何より主役は子供であって、大人は脇役の映画だった。これにはモンペもニッコリでしょう。親子で観て子供から質問攻めに遭うという団欒を過ごしてもらいたい。

「プロジェクト」とはアメリカの低所得者向け公共住宅のことであるという情報を得て臨んだが、舞台はディズニーワールドのそばの安モーテル。予想通り小っちゃい女の子が無邪気に遊び倒す姿が見れる。子供なので自分が貧困だったり母親が問題ありの大人であることは全然意識していない。アイス小屋の前で他人にお駄賃をせびる所なんかは観てる側は貧困を意識してしまうが、まだ子供時分だと考えるとそれくらいの光景はあってもおかしくないかなと思えてしまう。買えるのはアイス一個でも食べ回して皆で味わう。何はなくとも子供は何でも楽しみに変えてしまう。
ムーニーの母親ヘイリーは定職に就かず無許可で香水を売り歩いたり、友人の働くダイナーから廃棄を貰っている(それを取りに行くのも子供達の楽しみ)。ムーニーもそのろくでなしの母親から少なからず影響を受けていて、言葉遣いが汚かったり悪戯好きな性格。そしてモーテルのコワモテ支配人ボビーはそんな親子に手を焼きながらも遠くから見守り続けるのであった。近所で一番恐いカミナリ親父ポジにウィレム・デフォーって確かにピッタリだけど盲点だったから新鮮。まぁ相手がウィレム・デフォーでも子供達はおかまいなしに職場でかくれんぼしたりするのだ。

子供にとってはカラフルで色んな人がいて面白い場所でも大人にとってはどぎつく映る、不思議な映像。観ている間ずっと付きまとう感情は『ルーム』を観た時と同じ、「子供が大人になって真実を知った時受けるショックの大きさ」についてだった。いつか来ると思ってた子供時代の終わりがこの映画では唐突にやってくる。むしろ『ルーム』の子よりも突然に飛躍的な成長をムーニーは迫られて、大変美しいラストを迎えた。お前らテルマ&ルイーズかと! 犯罪映画かっていう鬼気迫る演出に笑ってしまったけど、子役にしかできない貫禄の演技に大号泣でした。
親のせいで遊ぶ友達を決められたり、危険な出来事と隣り合わせの環境で育てられるけど本当は関係なくて、貧しくても最低限安全な環境で育てられなくちゃいけない。ボビーみたいな人がいればいいけど、それがいない環境の子供もいるんだよな。それに親に不自由を強いられていても子供の楽しみや希望は縛れないもんよね。ダメな大人なんか気にせず頑張って生きて欲しい。
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