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朗かに歩めのNSのネタバレレビュー・内容・結末

朗かに歩め(1930年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

なんで帽子なんだろうと思う。それくらい人物が帽子をああしたりこうしたりとほとんど忙しないくらいだから。それと足のクローズアップ。リズムを踏んで見せるのはなんのサイン(?)なのか。あるいは煙草、吸って、潰して、口やら手やらでもてあそんで。そして手振り身振りのダンシングな揃った仕草。なんなのか。とは言えきっと、そんなものはなんであってもよい。と言うか恐らく、「なんなのか」と言う様な「意味」ではきっと「なんでもない」。ただ、それらはみんな、人物と人物とが互いの意思や感情をやり取りしたり、あるいは自分自身のそれに執着するというところでうごめいている様には見える。だからもしかすればそれらは、基本的に言語的なコミュニケーションの表現に制約のあるサイレント映画ならではの過剰さなのかも知れない。(だからトーキー映画でそのまま同じことがやれるかと言えば、それは難しい様にも思える。)
しかしその一方で、サイレント映画で希少な言語的表象である字幕もまた、この映画では時に印象的な力を発揮する。ほとんど唐突的な脈絡で人物のセリフに胸を突かれる様な瞬間がある。表出するセリフの文言が、時にその瞬間のその人物から実存的に一歩先へと飛び出て来る様な真実を吐き出すからだ。
物語としてはミニマルサイズの『罪と罰』の様な定型的な筋なのだが、それがそれでも紋切型の情動喚起としてではない内実のある感動をもたらし得るとすれば、そこにはそんな映画としての有機的な動態が息づいているからではないか。
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