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祝福~オラとニコデムの家~のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

3.3
コピーは「少女はこの世界に負けないように立っている」。

2017年、山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞にしてヨーロッパ映画賞最優秀ドキュメンタリー賞。試写で見せてもらったときは、どうにも掴み所がなかったのだが・・・・・・。

ワルシャワ郊外。ヒロインは14歳のオラ。福祉事務所からの来訪には「特に変わりはないわ」と酒に溺れる父を庇い、一つ年下で発達障害をもつ弟がなんとか初聖体式が受けられるように粘り強く働きかけ、何年も前に家を出ていってすでに新しい男との間に赤ん坊も生まれている母親が帰ってくるのを待ちわびている・・・・・・。

オラは十二分に賢い。「子どもなのに大人のような責任を担わされる」という重みにも十分に耐えている。しかし、そのけなげさを、家族で仲良く暮らしたいというごくごくあたりまえの彼女の希望を、不甲斐ない父親と、そんな夫との暮らしに愛想を尽かしたらしい母親が、仕方なく、とはいえ、あっさりと、裏切っていく。そんなひとりの少女の現実に、観客の私はどのように向き合えばいいのだろう・・・・・・?

だが、本作がデビュー作というアンナ・ザメツカ監督のインタビューを『ふぇみん』3191号で読んで膝を打った。

「重すぎる荷を背負った子には、それを意識化する証人が必要だ」「こんなに大変なことをよく頑張っているね、と言ってあげる。それが重荷をはずすことになる」という精神分析医のアリス・ミラーの言葉を導きの糸にしたのだという。

善良だけれど無力なオラの父親にワルシャワ中央駅で出会ったのが始まりだったとも。「言葉が通じずに困っていた観光客を、彼は4カ国語を操り助けていた。社会主義時代、闇の両替で生計を立てるために独学で覚えたという。ここ20年は職もなく、駅の赤帽でチップを稼ぐのがせいぜい。『学歴もなく貧しいけれど、善人で尊厳があり、信頼できる人だとすぐにわかった』」。作品を見ただけではそこまでわからないのは致し方ない。が、母親はともかくも、オラたち姉弟がその父親の愛を呼吸しているのは確かだ。

監督はまた、「私はインテリの家で何不自由なく育ち、愛されてもいたと思います。だから環境は違うけれど、多忙で留守がちの両親に代わって5歳の私が1歳の弟の面倒を見ていた。弟への責任、その重圧に押しつぶされながら」と、自身の子ども時代の記憶からオラの気持ちが理解できたのだと語っている。

ドキュメンタリー映画のカメラが目撃者であり、証人となる。本来はプライベートな領域である家族のなかで、女性というジェンダーに割り当てられた家事やケアという〝愛の労働〟を未熟ながらも懸命にこなそうとしている少女がそこにいる−−−−確かに彼女は「世界に負けないように立っている」のだ。
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