xyuchanx

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスのxyuchanxのレビュー・感想・評価

3.7
フレデリック・ワイズマン監督、3時間半の大作。

ニューヨーク公共図書館の裏側を垣間見れるドキュメンタリー。「鋼鉄王」アンドリュー・カーネギーによって建てられ、財源の半分を市、半分を民間の出資によって賄い、公民一体となって運営されている。

情報と教育へのアクセスを全ての人に保証すること。現代においてはこれが教育の機会の不平等の解消の第一歩だ。

”図書館=Library”はラテン語のLiber=本を収める蔵という意味。誰もが知ってる。

しかし本作では”図書館が扱うのは本だけではなく人々だ”と。本作で紹介される多種多様なサービスを垣間見るに、本当にその通りだな、と。

著者の講演会、ルーツ探索、ネット環境を持たない市民へのアクセス提供、そして本や資料をデジタル化し、世界中から閲覧可能にすること、歴史の勉強会、リンカーン・センターでのアートイベント、就業サポート、がん検診の受け方、ファッション広告の歴史、点字センター、障害者サポート、手話通訳、移民サポート、朗読会、会議場の提供、法的サポート、ブッククラブ、イノベーションラボ、舞台芸術、学校との連携したチューター、数学教室、ダンス教室、育児教室・・・本当に様々な形で市民をサポートしている。

ぼくの母校では1990年当初からいわゆる図書館を”メディアセンター”と呼び、インターネットアクセスやデータベース、映像メディアなども含めた”知識へのアクセス”を24時間提供していた。一部の不届きものが飲酒で騒ぎを起こして夜間は閉館する事になったが、田舎から上京したばかりの自分にとっては、インターネットとメディアセンターがまるで”知識の泉”か、”世界への窓”に思えたものだった。

かつて少しだけ国会図書館のネット化の専門家委員会にも参加していた事がある。そこには”平等”の名のもとに”視聴覚障がい者でも等しくアクセスできる状態にならないままネット化するのは不公平だ”と言う先生方が居て、遅々として事が進まなかった。

いやいや、違うだろ・・・国会図書館に通えない大多数の日本人に、アクセスする手段を提供するところから始めるべきだろう?と憤りを感じてたわけだが、このNY公共図書館のスタッフの”digital inclusion”の姿勢、”出来るところから少しづつ実行する”やり方は今でも、日本が色んな所で見習うべき所だ。

・タクソノミー、分類方法は?(作者別、タイトル順、テーマ別、年代別)
・どう予算を配分するべきか?自治体の意思と、民のニーズのバランス
・平等の定義とは?他者に迷惑になるもの、たとえば本を読まずに席を占有するホームレスなどにどう対応するか?
・所蔵すべき本をどう決めるか?貸出数の多いジャンル優先では中身の薄いノンフィクションだらけになってしまう
・”民主主義の柱として、必要な面倒ごとをこなすのだ” どこまで?

彼らが抱えるこれらの課題にも、根本的には、国づくりの土台となるには?という命題が横たわっている。

国を作るのは人。
人を作るのは教育。

いわゆる書庫ではなく、ネットも含め情報アクセスへの入口としての機能し、それを平等に提供しようとする理念と、それを支え続ける尊い人たち。

長いので誰にでもオススメは出来ない作品だけど、知的好奇心くすぐられる方は三回くらいに分けて観てみてくださいね。
xyuchanx

xyuchanx