上映時間7時間!!!!
エキストラ12万人!
製作費130億円!
製作期間5年!
ソ連軍全面協力!
4Kレストア版Blu-ray(¥15,000)を新たに購入。
観るのにめっちゃ体力使った…。
原作との違いは許さないというファンからの熱いお手紙やメッセージに応える形で、上映時間7時間になったのは笑うしかない。
そのまんまの意味で、"原作の忠実な映像化"を行った作品で本作に並ぶ作品は他にないとも言える。
【圧巻の会戦シーン】
自分にとって映画とは、"日常では味わえないスペクタクルな体験"を体感できるということであり、
そしてそれは物量であるということ。
本作、その点で1,500頭を超える馬と数万人のソ連軍人を投入した圧巻の合戦シーンは物量・質量共に圧倒的だった。
頭悪そうだけど、兎に角すんごい。
第1部では物語の序盤(それでも2時間)にも関わらず、大合戦と砲兵のカッコ良さが余す所なく描かれるアステルリッツの戦いの圧倒的スケール感。
後半のボロジノの戦いの場面でも砲兵が魅力的に描かれるあたりにロシア軍の火砲への拘りを感じる。
死んだと思われたアンドレが軍旗を握りしめて倒れている、その様を見下ろすナポレオンと空から光が刺す構図の美しさが印象的。
そして、第3部のボロジノの戦い。
本作最大の魅せ場でもあり、隊列を成すフランスの大陸軍とあいまみえるロシア帝国軍。
一進一退の激戦の様を、ワイヤーによる上空からのショットや頭上を騎馬が次々に駆け抜けていく下からの画、あらゆる構図が壮大な絵画の如くガンギマリ具合。
戦闘が始まる前に陣地構築を行うロシア軍の元に訪れるイコン=聖母と、それに跪くロシア兵たちの構図の荘厳さは筆舌に尽くしがたいとはこのこと。
大物量映画『ワーテルロー』(ソ連・伊合作)を超えてくる大群衆作品があるとは。
物量は最高である。
第4部、モスクワ大火の場面の地獄絵図の様相と、文字通り業火のショットも強烈に印象に残る。
中世・近世までの兵站と対価としての現地略奪の野蛮さ。
壮麗なフランス兵も一度戦闘が終われば乱れ狂う混沌の極み。
そして、真冬の中を敗走していくその様は、悲惨の一言。
やっぱりロシアの極寒を敗走していく軍隊というのは、「スターリングラード」(独製作)といい身も凍る。
まだ独ソ戦の記憶も残る文脈を感じる。
退却する仏軍の群衆の中に馬を降りた親衛竜騎兵(特徴的な騎兵用の兜が目印)の姿など、精鋭を誇った軍隊の成れの果てというのはいつの時代も悲壮を覚えるもの。
合戦シーンの火薬量は頭おかしくなる。
火薬技師リハチョフの名は覚えておきたい。
【製作について】
1961年に製作開始、1962年撮影開始からの公開が1965年。
足がけ5年の製作期間と長大な撮影素材に途方もくれる。
4Kレストア版のメイキングでソ連軍のハーフトラックに乗るフランス大陸軍兵の映像とか、異世界転生感というか戦国自衛隊感というか、なんかユーモラス。
【美術と映像について】
作品の半分を占めるロマンスに欠かせない、壮麗な舞踏会や邸宅の美術品の数々の美しさに目を奪われる。
"女の子はロマンスパートで、男の子は戦争パート"ととは、原作にして言われることだけど、密度の高い18世紀の貴族階級の美しい映像の数々に基本的には飽きないですね。
ドロドロの昼ドラと戦争大河ドラマが肩を並べていると考えれば、とっつきもやすく。
ただ、映像の高密度・高品質で殴りにくるので脳みそが疲れるのは、それはそう。
ソ連の広大な自然と、白樺の緑園や戦場の燻る煙とモスクワ大火の赤々しい業火など、映像美は言うことないでしょう。
とっても綺麗(言語死)
【他作品との比較】
言わずとしてたトルストイ原作。
まぁ媒体問わずに数多の作品が作られてきたわけで。
記憶に新しいのは、BBCの連続ドラマでしょうか。
スケール感は全く足元に及ばないものの、人間ドラマパートへの親近感は現代的に語れるので、とっつき易くもあると思います。普通に面白いし。
オードリーヘップバーン主演のハリウッド版は未見なのでそちらもいつか観ねば。
後年のソ連・イタリア合作の「ワーテルロー」で、本作のフランス軍突撃シーンがバンクとして使われている気がする。
ナポレオン映画としても、本作と「ワーテルロー」、あと2023年公開予定のリドリースコットの「ナポレオン」と連続して観れば歴史大河が完成しそう。
米ソ融和期の狭間で作られた作品なので、ラストは人間皆兄弟、世界市民的思想を感じる着地でもある。
(「ワーテルロー」と同じく)
また、独ソ戦でロシア時代のナショナリズムを動員して以来のロシア帝国時代の再評価という面のソ連映画史としても興味深く。
でもなんと言っても、やはり物量。
物量は全てを解決する。
【参考文献】
「華麗なるナポレオン軍の軍服」マール社出版
【参考メディア】
「戦争と平和 4KレストアBlu-ray」特典映像