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戦争と平和のpikaのレビュー・感想・評価

戦争と平和(1965年製作の映画)
3.5
『制作費は2005年時点の7億ドルに相当し、史上最も製作費のかかった映画とされる。国家事業として製作されたので実際の戦場を使用し、戦闘シーンには馬を約1,500頭、合計12万4,533人に及んだエキストラやスタントはソ連軍の兵士を動員することができた。一言でも台詞のある役は原作と同じく559名、重要な役を演じる俳優だけで36人が起用され、登場人員は戦闘シーンのエキストラを含めて延べ59万5,798人で映画史上空前絶後のスケールと言われた。』

っつーwikiの数行の情報だけで目がくらむ映画。マジで半端なかった。これは劇場で見たかった。舞踏会や行軍のシーンも凄いんだけど戦場のシーンがもう半端ない。こんなにエキストラ使えたら凄いもん以外撮れないでしょう。ただ撮ってるだけで圧倒される画面が撮れるんだもの。チビリそうなくらい凄かった。何キロも人で埋め尽くされ、それぞれが戦い倒れ駆け抜けて。。個々に演技し続けてる。。空撮で何分も流して撮ってるのに人が途切れない!圧巻という言葉はこれを表現するための言葉なのだなとか考えるほど圧巻。横移動のワンカットで様々な場面を見せるシーンがスーパー贅沢だった。

再現映画としては満足。原作の重要な台詞や言葉をポイントを絞って出してる。前半はかなり丁寧で、各重要なシーンをじっくり描いて見せててさすがだなぁ、やっぱ格が違うなぁと感心していたら後半に行くにつれ切り刻まれでもしたのか?と思うくらいシークエンスが短くなり、スピードが上がり、細かい部分まで再現して見せてるんだけど原作を読んだ人はピンとくるが読んでない人にはわけわからんだろう演出になってて、ザルヒ版「アンナカレーニナ」を思い出した笑。小ネタというか、原作既読の人は『こんなところまで再現してて凄い!』とるんるんになるような見せ方なんだが説明が全くないまま進むところが少なくなく不親切と思わざるを得ない笑。
カラターエフのくだりが一番酷い。ピエールの思想の終着点に最も重要な役割を果たすくだりなのに登場と退場だけしか見せず、ピエールが思い出すシーンなんて原作読んでりゃわかるんだけど知らない人からすれば『は?』としか思えない酷い流れだった。
これもやはり原作既読の人向けの映画なんだな。ソ連が国家事業で制作した映画だからそれでいいんだろう。
映画的にアレンジしてもいいんじゃないか?と思うようなところも一切逸脱せず描いてた。例えば途中の流れをバッサリ切ってるからなぜその場所にこの人物がいるのか説明はないんだけどシーンに登場していたり。
思い出すだけで笑えるな。ナターシャの仮装パーティーや合わせ鏡、ピエールがフランス兵と出会う家とか前後の説明が全くないから映画だけじゃ成立してない笑。

原作を読んだとはいえ込められた思想や哲学は全然読み切れていないし、単に人物のドラマを楽しんだだけでこれから何度も読み返して理解していきたいところなんだけど、読み返すまでせずともこの映画を見て改めて反芻できることは多々あった。原作を読んで既に得た部分だけではあるけど、長い小説なので読んでいるうちに抜け落ちて行く部分はあるので、読み返してまた新たに得られるものとは別に、得たけど取りこぼしたところを思い返してトルストイの凄さや「戦争と平和」の素晴らしさを改めて噛みしめるには十分なのかなとは思う。
演出は上手いとはいえない変なのがたくさんあってガタガタだったが被写体が凄いので無視できる。この規模で作った再現映画なので映画の完成度という面で評価できない作品になってる。

「アンナカレーニナ」とは違って「戦争と平和」ではキャラクターに恋してしまったので、思想とか映画の完成度とか別にしてそのアンドレイ公爵が動いて喋っているのを見れただけでも儲けもん。大興奮した。
年齢的にはギリギリであと10歳くらい若かったら天下無敵の完璧さだっただろうけど十分だった。めちゃくちゃかっこよかった。巻き戻して何度も見た笑。劇場で見たかったけどこれはDVDだからできることだわ。
戦場シーンもしかり、ロストフ邸や禿山など私の貧弱な想像力ではイメージしきれなかった部分を実際に見れたのも良かった。
キャラクターの成長や変化もよくて、特にナターシャは素晴らしかった。ナターシャだけは小説で掴みづらかった部分が映画で見て補えた部分があった。
ニコライとマリヤもイメージ通りだったのでバッサリカットした理由はわかるが二人の話も見たかったなぁ。
ただ見る前から不安があったピエールは最後までいまいち慣れなかった。監督本人が演じてるってのがキモい。ピエールは20代後半から30代くらいだろうに終始40代のおっさんにしか見えない。撮影時の年齢調べたらまさに42とかだったし。他にいただろうに。後半になり少しずつキモさは薄れたが。
アナトーリは説得力のあるイケメンだった。あの短さであの展開に説得力をもたらせなければならない、その部分を姿と立ち居振る舞いで語りきってた。
ドーロホフもおっさんだったな。エレンも監督の奥さんってのがマイナスに働き、原作の描写から納得するには至らなかった。。

ニコライのエピソードはバッサリカットしてるのにペーチャの話はちゃんと入れていて、映画の姿勢、伝えたい重要な部分はドラマ模様ではなくちゃんと原作に沿わせようとしたんだなと。映画の締めのしつこさも長大な映画の締めだから仕方がないなかもしれない。ドラマの締めではなくテーマの総括的なエンディングにしていて良かった。
主要キャラ3人の思想は頭に入ってこなかったけどその部分は多少なりとも入ってきたし。
3人の中でもアンドレイ公爵についてが一番丁寧だった印象。ナターシャは役者の表現力で補えていただけで映画では語りきれていないように感じた。ピエールの思想はブツ切りな上突発的過ぎて映画だけじゃマジでわけわからん気がする。原作を読んでると行動の意味はわかるのたが、映画だけ見てると何を考えていて何をしているのかわかりにくすぎる笑

もう一回見る気は起きないが見てよかった。アンドレイ公爵のシーンだけは何度も見たい。
原作未読の人にはおすすめしにくい映画でした。公開時日本でもヒットしたのは派手な大作だからか、みんな読んでいたのか。。
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