曇天

ミスミソウの曇天のレビュー・感想・評価

ミスミソウ(2017年製作の映画)
4.5
観客はきっかけとなる凄惨な事件は悲しい出来事として観るんだけど、そこから生まれる血塗れのアクションを楽しむためにも観る。こういった矛盾を映画は成立させてくれる。ビジュアル面では明らかに「スプラッタを見せるための映画」として作っていた。でも作劇に「スプラッタに感情を与える」効果があったので、相乗効果で『ミスミソウ』を愛憎劇として成り立たせていた。

復讐が始まったらスプラッタが始まり、当然俳優は痛がる演技をしたり人を殺すためのアクションをし出すのだが、日本映画でこれをやるのがかなり新鮮に映った。ゾンビ映画ともまた違っていて『アイアムアヒーロー』等に比べ派手ではないが、プロップの作りもそこまでリアルさはない。一方で邦画らしい落ち着いた演出なため、海外のB級スプラッタのようなチープさを感じない。
このようなバランスだから、悲しい物語の流れでいきなり(B級)スプラッタに放り込まれるこの劇的な切り替わりが新鮮で、あまり感じたことのない感覚が味わえた。快楽目的とかスプラッタ見たさではなく、無理のない納得のいく動機で人を殺すという意味付けされたスプラッタが観れたということで贅沢さを感じた。

同時に感じたのは「日本人のスプラッタ映画カッコいい…」だった。今作は逃げる側だけじゃなく、殺人鬼側も同学年の学生。特にかっこよかったのが流美と妙子の一騎打ちのシーンで、小っちゃい10代の女の子なのにヤッパを手に流血しながらやくざ映画さながらにタマの取り合いをする。こんな日本の女の子でも憎しみこもった立派なアクション俳優になれてしまう題材に感動した。こんな感じで「日本人が頑張ってスプラッタ映画を盛り上げようと演技する」姿に健気さを感じてしまった。しかも良い所でちゃんとスローモーションとか使うから演出でもカッコ良く見せようとしていて、監督が信用できる。カット割りが速く、過度な出血、骨折は過剰に複雑な方向へ曲げ、刺そうとする釘や飛んでいくボウガンにカメラを載せたりしてて戦闘中はホント別映画のよう。ボウガンの矢が頭に直撃した時は場内に数人の笑いが漏れ(若い子多かったからまぁ)、自分はその後の血の飛び出る音に絶句…。サイコホラー要素もあって海外の鑑賞にも耐えそうだと思ったけどな。

原作からそうだったように、ちゃんと人を殺すほどの憎しみの怖さを表現しようともしている。目をそむけたくなるくらい痛くて怖い。復讐前はよくある邦画にありがちなどうしようもないいじめっ子描写のテンプレートでうんざりするが、復讐開始後とのギャップが激し過ぎて気にならなくなる。復讐中は日常描写でも要所要所で原作に即した見どころがあり緊張感が絶えない。完全に体験型映画だった。

原作既読だったけど話の流れをほぼ忘れてたのでほとんど初見のような状態でした。唯一覚えてた、周囲に比べ野咲晴花が飛びぬけて美人という設定だが、その再現はさすがに難しかったのか排除して脇役も皆可愛い。いじめに関する群像劇的な側面もあり、若い俳優が多いのでフレッシュな演技合戦にもなってる。流美役が特に光ってたなぁウザさ満点で。妙子のラストはなるほど、原作からして春花はちゃんと家族に危害を加えたかどうかで復讐相手を選んでいたんだとここで気づかされた。漫画が上手すぎる押切蓮介、意外と初の実写化。

上映館が少なすぎる~頑張ってる映画だから皆に観て欲しい。ちょっと高評価しすぎてそうだけど、世間でもそれなりに高評価だよね? 確認したくても2回目がきついな…。座ってるのに不安で目眩がしたんで。
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