ぽん

ビール・ストリートの恋人たちのぽんのレビュー・感想・評価

3.0
ストレートで古めかしいストーリーに感じるのは時代が1970年代だからか。
無実の罪で投獄されるファニー。彼を救うために奮闘する恋人ティッシュと、彼女の家族たちの強く暖かな絆が、じんわりと沁みる作品。

このヒロインのティッシュを演じるキキ・レインという女優さんが可愛らしかった!衣装もすごく素敵。
でも、映画自体は少々ボンヤリしている印象でした。
ファニーという青年は、白人警官の個人的恨みを買ったがためにレイプ犯に仕立て上げられてしまうのですが、おそらくそれがアメリカにおける黒人差別の現実ということなんでしょう。「白人はやりたい放題」みたいなセリフも出てくる。

そしてファニーの「国外に出るしかない」という言葉には、原作者ジェームズ・ボールドウィンの本心が重ねられていると感じた。J・ボールドウィンは長期間ヨーロッパに住み、そこではアメリカで受けたような差別は殆どなかったと、ドキュメンタリー「私はあなたのニグロではない」(2016)の中で語っている。

今もなお、この手の古典的な差別は厳然としてあるのだと言いたくてバリー・ジェンキンス監督は本作を作ったんでしょうね。そこは分かるのだけど、いかんせん描き方が生真面目すぎて、原作にあった陽性のファミリーの力強さは減じてしまったように思えた。原作はもう少し軽やかな雰囲気があったんだけどなー。
特にティッシュの母親がプエルトリコに飛ぶ下りは、ド素人の主婦が探偵かスパイの真似事をして危険に飛び込んでいく、みたいな様子が愉快ですらあった。が、映画の方はどこまでもシリアスで起伏に乏しく、さほど印象に残らないシークエンスになってたんですよね。

あと、弁護士さんもちょっと影が薄い。ティッシュの姉が福祉系の団体で働いていて、その関係でつながってる弁護士なので要は人権派なんだってとこが映画では全く説明がなく解りにくい。
ただ、原作で「股間を蹴り上げられたのを我慢してるみたいな笑顔」と表現されてた表情は、この役者さんキッチリやってました!(満足)

ちなみに、タイトルの「ビールストリート」はニューオリンズにある地名。「父親が生まれ、ルイ・アームストロングが生まれ、そしてジャズが生まれた、アメリカのすべての黒人の故郷、我らのレガシーだ」とボールドウィンの言葉が冒頭に記されている。
“ビールストリート・ブルース”というジャズ・ナンバーもあるようです。
ぽん

ぽん