幽斎

スリー・ビルボードの幽斎のレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
5.0
やっぱり何度見ても凄い映画だ。初見ではサスペンス目線で観た為、「あの黒人が犯人だろう」「余命僅かな署長が自殺する筈ない、と言う事は」と実に浅はかな目線で観てました。この作品は噛めば噛むほど味が有る。

本作は「人間関係の断絶」「相容れない他者との和解」がテーマとすれば、真犯人は作品中に登場してない、が正解だと思います。この作品を見て最初に浮かんだのはClint Eastwood監督「許されざる者」。正しいと思ってた人が違う一面を持ってたり、悪人だと思った人が実は良い人だったり、サスペンスによく使われるキャラクターの転換を本作は人間性を深堀りする視点で描いてます。監督兼脚本のMartin McDonaghは前作「セブン・サイコパス」でも捻りの有る脚本が秀逸でしたが、この作品では実に淡々としており、ドキュメンタリーを観てるかの様な、異様な緊張感が物語を支配しています。

真犯人について、「奴が居た場所が極秘事項だった」「男が居た場所のヒントは砂が有る所だ」と2代目署長が語ってるので、手の届かない人物で有る事が明確に示されてます。1代目署長が自殺したのは、真犯人を知っていて、不逮捕特権でお縄に出来なかった事への贖罪なのかもしれません。それを聞いて思い出したのが、2006年イラクで実際に起きたレイプ殺人事件、マフムーディーヤ虐殺事件です。陰惨な話なので多くは語りませんが、興味のある方はBrian De Palma監督「リダクテッド 真実の価値」を観て頂ければと思います。

ラストについては皆さんと同じで、目的地に着いても殺さないと思います。この作品が観た人の数だけ感想が有るのも、このラストが有るからです。ここで2人の行く末を提示しない、真犯人も出てこない、そんな単純な勧善懲悪ではないよと監督は語り掛けます。本作の裏テーマ「赦し」は、人の生き方にはベストと言う事は無く、人を傷つけた分自分も傷付けられる、常に理想と現実との折り合いをつけて行く、その繰り返しなのだと思いました。

人生の中には何度でも観たくなる映画が有ります、本作も紛れもなく2018年ベスト・ムービーです。
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