backpacker

ガーンジー島の読書会の秘密のbackpackerのレビュー・感想・評価

4.0
【備忘】
"トート機関"の労働者について、作中では、「ロシアやポーランドから徴用された、奴隷同然の労働者」という、ザックリとした説明のみであった。
読書会の創設者エリザベスの運命を左右した、この"機関"に隷属させられていた労働者について、鑑賞後適当に調べたため、備忘メモとして残す。

〈トート機関とは〉
「フリッツ・トート博士が組織し、多数の労働者により道路や要塞を建設したこのトート機関は、第三帝国の巨大建設に必ずその名が現れる重要な建設組織であった」(『図解 第三帝国』より)

[補足]世界で最も有名な高速道路"アウトバーン"の建設における総監を勤めたナチス党員のフリッツ・トートが率いた、強制的に徴収した労働者によって、主に軍事構築物の建設を行う組織である。
強制収容所の囚人、戦争捕虜、占領国捕虜といった人間を奴隷として使役し、多数の死者を出した。


【作品感想】
作品タイトル以外には、何も事前情報を入れていなかったこともあり、戦中・戦後のイギリスが舞台ということに対し、純粋な驚きを持って鑑賞を始めることができた。
島の読書会創設者であるエリザベスが今どうしているのか?という点においては、主人公ジュリエットが島に来るきっかけを作った男・ドーシーや、他の読書会メンバーとの会話から、序盤の時点で予想はできていたため、強い驚きはなかった。
むしろ、当然あるべき帰結であり、この形のオチでなければ、かなり不満が残ってしまっただろう。

戦中に空爆で両親を失ったジュリエットのように、戦争で多くを失ってきた人々が、苦しみながらも前を向き生きていく、その力強さが胸に残る。

ジュリエットの婚約者にしてアメリカ軍人マークが、個人的には好印象。
イケメンで社交的で、傍目には"プレイボーイ"に見える男なのに、実際は"良い人止まり"の損な役回り、というのが皮肉だ。

モテぬ身の僻みとか、同じく良い人止まりな身の上だからとか、色々個人的思いが影響しているのは当然だが、ドーシーよりも余程好きなキャラクターだ。

また、『ウォッチメン』でオジマンディアスを演じていたマシュー・グッド演じる編集者シドニーも、かなり良い役柄だった。
当初ゲイ役とは思っていなかったこともあり、当て馬or本命?という、恋愛脳丸出し思考回路に陥りかけたが、「彼はゲイである」とジュリエットが暗に仄めかしたことにで、印象の急旋回が発生。
良いキャラに見えるようになってしまった。

実際、そんな描写(彼がゲイかどうかハッキリ示されるシーン)は皆無で、ジュリエットの言葉を信じるか信じないかによってどうとでも取れる。

ジュリエットからの「結婚時の紹介人になってほしい」という要請に対する動揺や、それを了承する決意のシーンを見ると、とてもそんな役柄には見えない事も胸をざわつかせる。
「彼はゲイなのか?」という謎、彼女に対しどんな思いを抱いているのかという謎、それらの疑問が彼を取り巻くことで、このアンニュイな微笑の奥底に眠る感情はなんだったのか?と気になり、たちまち良キャラ認定となったのだ。


以上のような登場人物のキャラクター性の他にも、島で起きた事件が解き明かされる過程や、彼ら彼女らの恋模様、時代がもたらす悲劇等、様々な要素が巧みに折り重なり、美しさと寂しさ、喜びと悲しみ、色々な感情を堪能することができた。

歴史ドラマのスタンダードをブリティッシュな雰囲気と共に描き出した、記憶に残る良作だ。
backpacker

backpacker