komo

ガーンジー島の読書会の秘密のkomoのレビュー・感想・評価

4.8
私事ですが、8月末に静岡県から神奈川県へと引っ越しました。
引越し期間中は何かと慌ただしくて映画と触れ合う時間がありませんでしたが、また少しずつレビューを書いていけたらなと思います。近隣に映画館も沢山あるので楽しみです♪

引っ越してから初めて観た映画はこちらの作品。
主演がリリー・ジェームズ、監督がマイク・ニューウェル、プロデュースが『スリービルボード』の方とあってずっと観たくて観たくて仕方なく、引っ越したらこの映画を一番に観ると決めていました。
かの映画通御用達の劇場『TOHOシネマズシャンテ』も初利用!笑
そして凄く良かった…ここまで温かい気持ちにさせてくれる作品だとは思っておりませんでした…。
ミニシアター作品で上映館が少ないのがもったいない……!


かつてドイツ軍に占領され、住民たちの自由が奪われていたイギリス海峡のガーンジー島。
しかしその中で毅然と暮らしていたエリザベスという女性が『読書会』を立ち上げてから、その会合に参加する人々は辛い現実を忘れて楽しい時を過ごすようになります。
それから数年後。
ロンドンの女流作家ジュリエット(リリー・ジェームズ)は、ひょんなことからガーンジー島の読書会のメンバー・ドーシーと文通を始めます。
ドーシーとの文通で読書会の存在を知ったジュリエットは、創始者であるエリザベスと会うことを楽しみに島を訪れますが、そこに彼女の姿はありませんでした。
エリザベスはどこへ行ってしまったのか。そして彼女の名前を口にするたび、島人たちが曇った表情をするのはなぜなのか。
島人たちと関係を深めながら、エリザベスやガーンジー島に起こった過去を探って行く物語です。

人間の心理ドラマが大部分を占めていますが、順序立ての良いミステリー映画としても楽しめました。一般的なミステリー作品に比べると難解ではありませんが、人と人の絆に重きを置くシナリオでは、このくらいの明快さが良い塩梅でありました。
もう少し説明すると、主人公ジュリエットが「これはどういうことなんだろう?」と感じた疑問を島人に投げかけると、彼らは最初のうちは語るのを渋るものの、徐々にポツポツと言葉にしてくれるのです。
なので『明晰な頭脳で謎を解いてゆく』タイプの物語ではないのですが、そうした中でもジュリエットの目の付け所が、作家としての審美眼あっての鋭さという感じで面白かったり、
また彼女の真面目な探究心と、聴き手としての柔らかい物腰が、島人たちの心の中に眠っていた言葉を揺り起こしたりしていて、
『謎解きそのものを楽しむ』というよりは、『謎解きによって得られる島人たちの心の雪解け』を味わえるような作品でした。

悪い言い方をすればこのジュリエット、自身との繋がりが一切ない島へ渡り、現地の人々のつらい過去をわざわざ呼び覚ますということをしてしまっているわけなのですが、
それでも厭な気分にならずに画面に没頭できるのは、リリー・ジェームズの理知的で人懐こい笑顔の為せる技だと思います。
40年代の貴婦人衣装がとてもフィットしていて麗しいです(*^_^*)
ついでに私は『マンマ・ミーア!ヒアウィーゴー』の大ファンなので、リリーが再び『辺境の島に強く惹かれて上陸する女性』を演じてくれたことが嬉しかったです!

そしてこの作品は、戦争や占領を描いた映像としては描写が軽めではあるのですが、『支配』にまつわる哲学は事細かに提示されていました。
『支配』と対極にあるのは『解放』ではなく、『支配下における生命力』なのではないだろうか、と思わせてくれるほど、エリザベスという女性の逆境精神には美しいものがありました。
そしてエリザベスを喪った人たちの憎しみや喪失感から来る哲学が端正にまとめあげられ、救われてゆくのも素晴らしいです。
誰にでも思い出したくない過去や、語りたくないエピソードはある。
しかしそれをタブーにしたままでは、きっと『赦す』ということも永遠にできない。
どれほど語らおうとも失われたものは帰っては来ないけれども、語ることによって自分の心は新たに培うことができる。
残されたものたちへの希望を歌った物語、詩篇、論理。
それが過去と未来を、未来と希望を繋いでくれる本の奇跡。
そして本だけではなく、それを大切にする人々の心もまた尊いのだと教えてもらえる温かいラストシーンでした。
また、ドーシーが朗読するシェイクスピアの一節も物語のテーマを深く掬い出していました。
私も自分の心を代弁してくれるような本に出逢いたいです。
komo

komo