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ワンダーウーマン 1984のbackpackerのレビュー・感想・評価

ワンダーウーマン 1984(2020年製作の映画)
3.0
今年はスーパーヒーロー映画が軒並み延期され、本作が漸く年末に公開となりました。
ワンダーウーマンについては、1作目が既にそこまで好みではなかったのですが、今作はそこそこ良かったです。スケールのデカさで細部の作り込みの粗を包みこみ「ガハハハハ!細かい事は気にすんな!」と豪快に笑いだすような、大らかさを感じました。

以下、個人的に好みのポイントです。

①隠すことなく猛プッシュする主張
→自分自身や他人を愛することは、とても素晴らしいこと。人に優しくなるためには、自分の美点を認めることから始める。
→嘘や不道徳の代償は自らに還ってくるのだから、それをすべきではない。人の心の中には、清らかな思いやりの心がある。それを忘れてはならない。
→過ちを犯したとしても、反省し、償いのため動きなさい。それが身を割くほどの悲しみを伴ったとしても、正しい道を行く事にこそ意味がある。

このような主張を、作品の軸として、ブレずにひたすら唱え続けます。
ご都合主義溢れる展開でも、補ってあまりある程の熱量で気にさせまいとしている点に、努力の跡を感じます。

②魅力的な悪役
今回の悪役マックス・ロードは、野心に満ち満ちた実業家です。
DCの実業家と言えば、ヒーローサイドにはブルース・ウェイン、ヴィランサイドにはレックス・ルーサーという、巨万の富を持つ顔ぶれがおりますが、本作のマックスはそんなことはありません。
最後の最後まで、三下感が漂い続けました。

彼がどうやって〈願いを叶える石〉の存在を知り、現物を輸入できたのか、細かい点は語られません。そんな事は気にすんな!とばかりに放り出します。
〈願いを叶える石〉の力で得た能力が「願いを叶える石、お前になりたい!お前の力が欲しい!」だなんて、お前わかってんな!(『アラジン』でジャファーがジーニーに願ったソレと同様の同一化展開は、〈願いを無限に叶えられるようにする願い〉と似た系譜で、全ての願いを叶える力を手にする願いは誰しも思い描くものですよね。まあ、ジャファーはそれが仇となってランプ行きでしたが……。)

彼は自らに石の能力を宿しますが、彼自身は他人の願いを叶えることしかできないため、〈願いを叶える→代償に相手から何かを奪う〉形式で、力を得ていきます。
そうして手に入れるのは、基本は富、社会的地位、権力、そして健康!
しかも、世界征服したも同然のスケール感で物事を成したのに、その方法は「君たちの心からの願いを叶えてあげるから、言ってごらん!(代償がいるとは言ってない)」ってのも、巨悪感ゼロ!むしろ小物っぽい……。
結局、息子を愛するパパだったので、今までの願いの積み重ねがご破算となってしまうのも、悪人くさく無いんですよねぇ。
そんなところが非常に魅力的でした。

③The・80年代(雰囲気)
まさか、エアロビクスシーンが入っているなんて。80年代と言えば、謎のエアロビブームからのエアロビシーンぶっ込み映画の量産時代でもありますが、最近の80年代リバイバルではまるで登場しません。
髪型も服装も、コッテコテに80年代くさく、他のスーパーヒーロー映画では見ることの少ない時代を描いていたのは珍しいと言えます。

とは言いつつ、"1984年"という年代設定は、正直謎でもあります。
願いを叶えて世界が崩壊するまでの過程でも、管理社会批判みたいな主張は感じられませんでしたので、特別な年という独り歩きも否めない。
ちょっと無理矢理80年らしさを盛りこんで違和感もありますし、リバイバルブームの波に乗るかのような年代設定には、安直さも感じます。
でも、80年代って謳っておけばとりあえず売れるような風潮があるので、それでいいんでしょうね。

④スティーブ・トレバー(クリス・パイン)の復活の位置付け
アメコミでは、死んでもなんやかんや理由をつけて復活するのがよくあります。
DCでは、スーパーマン御大がスクリーンの大画面で復活を遂げていますしね。
そんな中、前作で死したスティーブが復活するには、「それ相応の理由づけがあるんだろうなぁオウ」と上から目線に見ていたのですが、なるほど、ある種の降霊ですか。上手いやり方だなぁ。

彼の復活と最期は、ダイアナを大きく苦しめつつも、迷いや葛藤から解き放たれる鍵となります。
結局スティーブという人物は、前作同様、イニシエーションの道具とされてしまいました。
その点は気の毒ですが、主人公の成長のための犠牲にうってつけな存在ですし、無闇矢鱈な肉体を伴う命の蘇りではなかったことは好ましいです。


前作も今作も、ワンダーウーマンの肉体・精神の成長を描いてきましたが、今作の構図は〈肉体→セミッシラ、精神→愛する人の喪失(同一人物で二度)〉と、代わり映えせず焼き増しした感が否めません。
また、スケールをデカくしすぎて、広げた風呂敷を畳めずに放り出すなど、粗も目立ちます。
目立ちますが、そもそもスーパーヒーロー映画って、綺麗事と荒唐無稽とゴリゴリのハリウッドエンディングの煮凝りみたいなもんですから、突っ込むだけ野暮なのかもしれません。
美辞麗句並べ立てたお約束スーパーヒーローワールドへ原点回帰した、逆に珍しい映画だったということでしょう。


残念ながら、アクションシーンはかなり控えめで物足りなかったのですが、「スーパーヒーロー映画を見るのだ」という、ジャンル映画鑑賞の心持ちで楽しもうと決めていたことが奏功し、そこそこ楽しく鑑賞できました。
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