keith中村

007/ノー・タイム・トゥ・ダイのkeith中村のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

 「フィルマのレビューは作品鑑賞後に読むもの」と思ってる私は、どんだけネタバレ書いても「ネタバレ」ボタンは使わないんだけど、本作は流石に「ネタバレ」ボタン押してからポストしますね。
 それくらいのインパクトがあるのが本作。
 
 満点は満点なんです。
 同い歳、昭和43年生まれのダニエル・クレイグさん、ほんとうにお疲れさまでした、という感謝もあるし。(←元号ネタを定番化させようとしてるだろ、俺)
 でも、いろいろ複雑な心境なので、観た直後の記録としてレビューを残します。
 
 まず、本作は観る前から、というか「スペクター」観終わった瞬間から、モヤモヤしてたんです。
 それは、「スペクター」がこれ以上ないくらい見事な幕切れだったのに、「クレイグ版ボンドはあと一本契約が残っているので、5作目も製作される」と知っていたから。
 これ、「トイ・ストーリー4」と同じモヤモヤでした。
 あっちも、「3」が完璧な幕引きをしたのに、「いらんことしてくれるなよ〜」と観る前から思った。
 あっちは観たら観たで、納得できる部分もあるんだけれど、やっぱり今でも思い出すたびにモヤモヤしてる。
 
 まずはちょっと、クレイグ・ボンドを総括しますね。
 クレイグ版は「超シリアス路線」がウリでした。
 
 まずは1作目の「カジノ・ロワイヤル」。
 これ、原作読んでなくって、イオンプロじゃないほうの「カジノロワイヤル」観てる私のような人間には驚愕だった。だって、昔の「カジノロワイヤル」は、超おちゃらけ悪ふざけコメディだったんで、クレイグ1作目も「オースティン・パワーズ」みたいな映画かいな、と思ってみたら、超シリアスで、超リアリスティック。
 なるほど、そうやって現代風にアップデートしてるんだ、と感心することしきりでした。
 
 次が「慰めの報酬」。
 クレイグ版は傑作揃いなんで、これはちょっと霞んじゃいますが、毎回前作の終わりから直結して始まるスタイルを続けているクレイグ版では、なくてはならないブリッジ的作品(←って言い方も失礼だよな)。
 何よりも、オルガ・キュリレンコ様が出てるだけでオッケーな作品です。
 まあ、私、崇拝している癖に「キュリレンコ」だったか「キュレリンコ」だったか、いっつもわからなくなるんですが。
 本作ももちろんシリアス路線を踏襲していた。
 
 でもって、最高傑作の「スカイフォール」ですよ。
 もう、ボンド映画の金字塔ですね。
 第三幕の籠城シーン、マジで体がガタガタ震えてくるほど怖かった。
 んでもって、ボンド映画では「絶対あってはならない出来事」がラストで描かれる。ここは滅茶苦茶ショックでした。
 
 ちょっと一回逸れますね。
 イオンプロのややこしいところって、役者の交代が「お約束」になってるところですよね。
 まず、ショーン・コネリーからジョージ・レーゼンビーに変わって以降も「M」と「Q」とマニーペニーが続投した。
 それぞれ、別のタイミングで降板して、平均するとそれぞれのロールを4人くらいの俳優が演じてきたんだけれど、その間も当のボンド役もガンガン変わっている。
 (「男はつらいよ」でも「おいちゃん」が歴代3人いる。あと、満男は赤ちゃん時代は吉岡秀隆じゃなかったですね)
 
 今から思えば、「カジノ・ロワイヤル」でジュディ・デンチは続投しない方がよかったかもね。
 いや、ジュディ・デンチの「M」って、最高なんですよ。子供の頃から、ずっと007を見てきた私としては、バーナード・リーの印象がとても強かったのに、いつの間にかジュディ・デンチのイメージしかなくなってる。
 それでも、ジュディ・デンチも取り替えたほうがよかったと思うのは、「カジノ・ロワイヤル」がそれまでのボンド役交替と異なり、明確に「リブート」だったから。
 完全にガラガラポンするほうが良かったのかもしれない。
 
 だって、グレイグ版は、若きスパイが"00"ライセンスを貰った駆け出しの時代から、老境に至るまでを総括するという、過去作とのリンクを断ち切ったリブートなんですよ。まあ、その割には、毎回「前作の続き」から物語がスタートするという不思議な矛盾もありましたが。
 あっ、矛盾じゃなく、時間の速度が違うのか?! シャマラン師の「オールド」の先取りなのか?!(←お前、うるせえよ。って、俺か)
 だから、後でトータルに考えると、ジュディ・デンチの続投に違和感がある。
 
 だがしかし!
 はい。ここで話を戻すんですが、だがしかし、それだからこそ、「スカイフォール」の悲劇が際立つんです。
 
 続く「スペクター」では、「M」はレイフ・ファイアンズなんですよね。
 しかも、ここ、明確に「前任者がいなくなったので、交代しました。『M』とは個別の人間ではなく、すげ替え可能な役職だったんです」と描いてみせる。
 みんな大好きジュディ・デンチおばちゃまですら、エクスペンダブルに過ぎなかったという残酷なスパイの世界。
 それを考えると、クレイグ版が素晴らしいのは、「うちはうちの勝手にやらせてもらいますわ! by 妙子 from 細雪」だと思ってたこのシリーズによって、過去の役者交替だって、過去のMやQやマニーペニーだって、「エクスペンダブルな死によって交代されたのかもしれない」と、ちょっとぞっとする空想までできちゃう、過去作へのリスペクトだと解釈できるんです。
 監督は雇われだから、これ、イオンプロのブロッコリーさんがすごいんだろうね。
 まあ、ブロッコリーさんも親子2代に亙って、基本的にはボンド映画しか作ってないんだけれど、そういった過去作へのリスペクトは、娘のバーバラさんが親父さんのアルバートさんをリスペクトしてるから生じた考えなんでしょうね。
(この段落、雑だな。俺の勝手な思い込みをプロデューサーの思いに牽強付会してるわ~)
 
 「スペクター」、もうちょっと書きましょう。
 サム・メンデス続投でした。
 しかもシリアスの極であった「スカイフォール」の続篇なのに、非常に原点回帰。言い換えると不真面目。
 本作で、アストンマーチンも出てくるし、Qも「おもしろキャラ」になるし(take back in ONE PIECE「一片も欠けずに元の状態」で返せってたのにtake back ONE PIECE 「ハンドルっていう一個の部品だけ」返したよね、って自分のダジャレにウけてるベン・ウィショウが最高でした)、マニーペニーも前作でようやく名乗った後だし、トンデモ科学なウェポンも出てくるし、クレイグ・ボンドがストイックに封じてたことが全部乗せになった。
 しかも、「女王陛下」以来、二度目のボンド・ウェディングで終わる。
 さらに言うと、それが「女王陛下」と違い、最高のハッピーエンディングなんだな。
 
 だから、やっぱり勝手にバーバラさんの心情を代弁するとさ。
「パパがやってきたことは尊敬するけれど、あたしだって女性だからさあ、ちょっとは思うところもあったのさ。だから、クレイグさんを起用したシリーズでは、パパが絶対やんなかった路線を追求してみたのね。でも、やりきったんで、サム・メンデスさんに続投してもらって、『既定路線』に舵を切り直して終わったんだよ」
 みたいな思いを勝手に想像した。
 だからこそ、クレイグさんは、契約を反故にしても、「スペクター」で降板すべきだと強く考えたの。
 あと、「スペクター(ブロフェルド)」は権利関係がややこしいのに、本作で「満を持して」のフィーチャーだったもんね。有終の美にふさわしい映画だった。
 
 でも、結局「ノー・タイム・トゥ・ダイ」が出来ちゃった。来ちゃった。
 ダニエルさん、お疲れさまでした。
 ダニエルさん、ワックス・オン。ワックス・オフ(←別の映画だろ)。
 
 観る前に想像してたのは、「もしもダニエル・クレイグ版007がそれ以前のレギュラードラマだったら」という作品。
 つまり、シリアスなクレイグ版を「スペクター」で原点回帰させたとはいえ、あれは「原点回帰ビギニング」の要素だけで終わらせたので、ロジャー・ムーアを極北とする「軽口を叩きまくる不謹慎なボンド映画」はクレイグ版には存在しないじゃないですか。なので、最後にそれを作って、それで次の新シリーズに向かうんじゃないかと考えてました。
 つまりはひたすらに明るいボンド映画を期待して観に行ったのです。
 
 ぜんっぜん、違うじゃん!!(前半はちょっとその要素あったけど)
 看板に偽りあり、じゃん!!
 「死んでる暇はない」だとぉ! いや、ボンド死んどるやないけ~!
 
 もう、こっから先、全然思考をまとめられないので、良かった点とモヤモヤ点を列挙するだけにします。
 
 良かった点。
・予告の「すげえシーン」がほとんどアヴァンタイトルだったこと。「えっ、じゃあ、本篇はどんだけ凄いの?」という期待感を最初の25分で思わせてくれたところ。
・「女王陛下」と同じく結婚したボンドの、「女王陛下」で果たせなかったハネムーンを描いていたところ。
 (ここ、「女王陛下」と同じような山道を行くんで、若干ドキドキした。でもレア・セドゥたんが予告で出まくってたので、死なないよね~、と確信はできてた)
(後、ハネムーン先が昔の女のお墓ってどうよ!!)
・10/10追記:全然忘れてたけど、サッチモの"We have all the time in the world"は「女王陛下」の挿入歌なんですね。"time"入ってるし、邦題の「愛はすべてを越えて」も、本作に通じる……。
・同じく、ジェームズが子供を持つことが出来たという、「次世代に繋ぐ」描写。
・アストンマーチンどころか、原作のベントレーが登場(「ロシアより~」でも出てたけど)。「さらなる原点回帰か!」と嬉しかった。
・ジョイたん再登場!
 いや、意味わかんないフレーズだな。
 アナ・デ・アルマスさんですよ。
 「ノック・ノック」の糞ビッチと、「ブレラン2049」のジョイたんを演じたアナさん、最高でした。
 今、上のほうに、「リブートするなら俳優一新しろよ」と書いた舌の根も乾かぬうちに書くことじゃないけど、アナさん、続投お願いします! CIA側ではフェリックスさん死んじゃったんで、後継として。
・本作ではガンバレルが2回登場しましたね。最初の定番シーンと(ここは、血が流れてユラユラはなかった)、謎の島での、それとそっくりなトンネルのショット。こういうの見せてもらうと、明日からも「頑張れる」。(←つまんねえ駄洒落書いてると、殺すぞワレ!)
・コロナ前の製作なのに、コロナを考えた。まあ、スパイものなんて、結局ABC兵器の争奪戦ばっかりなんで、意図してなくても、かなりの高確率でそうなったんでしょうけど。
 
 モヤモヤ点。
・フェリックス・ライター殺してるんじゃねえぞ!
・ブロフェルド殺してるんじゃねえぞ!!
・ジェームズ・ボンド殺してるんじゃねえぞ!!!
・ブロフェルド弱すぎ! ラミ・マレック、ブロフェルドを超えるヴィランでは全然なかったわ!
 (ラミ・マレックは可哀想でした。「ボラプ」のすぐ後から予告やってた本作なのに、延びに延びたんで、「ボラプ」か~ら~の~、まさかの~「ヴィラン!」ってサプライズ感がまったくなかった)
 
 まあ、ボンドが死ぬのは、結構はじめの方から「そうじゃないかな」と感じたし、第三幕の「謎の島上陸」あたりではそれが確信に変わったんだけど、せいぜい「生死不明」「行方不明」あたりの描写にして、次の俳優さんにつなぐんだと想像してたんです。
 「次のボンド俳優ハンティング」が難航してるってニュースもしばしば流れたけど、「もしや、本作の中で発表するのか?!」みたいなね。で、本作では「007」をやっぱりエクスペンダブルなロールとして描いてるんで、次は黒人女性なのか?! なんてことも想像しました。
 
 ともかく、ダニエルさんが降板するのは当たり前として、フェリックスとブロフェルド巻き込んでヴァニッシュさせてんじゃねえよ! ってのがモヤモヤ点。
 あっ。でもさ、フェリックスさんの代わりが今後アナ・デ・アルマスさんだったら、全然許しますよ!
 
 あと、本作は「で、これからどうすんの?!」って最後にめっちゃ思いましたよ。
 ちょうど「帝国の逆襲」や「BTTF2」と同じ感覚。
 とはいえ、そっちは年単位でビビったんだけど、本作は「エンドロールの間」だけ、分単位だけ、その不安を感じました。
 今日、エンドロール前に帰っちゃったお客さんは、多分一人だったんだけど、私を含む残りの観客がMCU映画のように最後まで席を立たなかったのは、最後の最後に「あれ」が映されるのか? っていう一点。
 
 「最後、『帝国の逆襲』ばりに"I know."言ってたしな。ってか2回も言ってたしな。なんか、変なフラグ立った感じやったし。出なかったらどうしよ?!」
 そんな感じ。
 
 そしたら、最後にちゃんと出ましたよ。
 "JAMES BOND WILL RETURN"
 
 出たら出たで、「何や! 戻ってくるんかい!」と関西人の性格上スクリーンに突っ込んだんだけど、物凄く安堵もしましたよ。
 ジェームズ・ボンドは戻ってくる。
 やっぱ、そうでなくっちゃ!

----------

 ひとつだけ追記。
 ゴールドフィンガーでは触れたものを全て「金」にする「マイダス王」が描かれてたけど、本作ではボンド自身が、触れたものをすべて「菌」で汚染する不可逆な「タイフォイド・マリー」ってのも、ひとつの時代の終焉って意味で見事だな......。