スコット

007/ノー・タイム・トゥ・ダイのスコットのレビュー・感想・評価

2.5
ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンド、ついに“完結”。

ハンス・ジマー渾身のスコアをバックグラウンドに映し出されるボンドの最後のシーン。これまでの007では描かれなかったという“この描写”は個人的にも予想していなかったもので、ただ驚いた。しかしながら、ダニエル版007を愛してきたファン(俺含む)にとって、これ以上ない感動をもたらしてくれた、これほどまでに綺麗に締めてくれた、この作品の製作に携わった人たちに心から『ありがとう』を言いたいです。

とはいえ。
映画自体は、はっきり言わせてもらうなら、凡庸。
完璧すぎた『スカイフォール』→しっかりまとまっていた『スペクター』の流れが上手く受け継がれないまま、A級的B級スパイ映画になってしまったという印象でした。個人的には期待はずれだった『スペクター』の評価を相対的に上げざるを得ません。

冬のノルウェーでの謎めいたシーン→007では珍しい愛する相手と愛し合うボンドのシーンから、怒涛のカーチェイス→ビリー・アイリッシュの流れが完璧だっただけに、その後は盛り上がりという盛り上がりがないままに進んでしまっていたのが、なんとも残念。

全体的に暗く、起伏が無く、体感以上に感じる時間の長さ。どうにも目的が見えない今回の敵との、終盤に待ち受けているであろう対決もそう待ち遠しいものでもなく、『黒幕とケリをつけにいく』と息巻くボンド達とは対照的に、だいぶ序盤で眠くなってしまった俺なのでした。

その主な理由としては、これまでボンドと苦楽を共にしてきたMI6のイツメンが今作では大人しく、代わりに敵や新登場のキャラクターに出番を取って代われているんですが、そのニューカマー達が皆さんどうにも魅力に欠けるというか…。

なかなか現れず顔出しを勿体ぶってる割に、いざ現れたら人の良さが顔から隠しきれてないラミ・マレックは、クリストフ・ヴァルツやハビエル・バルデムらに比べるとインパクトが弱く、やってることは確かにエゲつないんだけど、007シリーズの悪役としてはちょっと弱いかなという印象を受けた。『ボヘミアン・ラプソディ』最高だったんだけど。

アナ・デ・アルマスのパロマは可愛かったけど、アナに注目していたという監督と脚本家がアナのために作り上げたというキャラクターのようで、ここのシーンだけ露骨に浮いていた。アナのファンである俺でさえも、唐突に現れて唐突に消えていくパロマのシーンには戸惑いを隠せなかった。いや嬉しいのは嬉しいけど。

そして、近年、声高に叫ばれるようになった“多様性”の要素として、女性であり黒人であるラシャーナ・リンチが重要な役割を背負って登場。ボンドに対して『時代は変わったの』とシンプルに言い放つ彼女は確かにカッコいいけれど、シリーズ物で、あまりその背景が描かれない新キャラが、いきなり主人公と同等のポジションで活躍するというのは、正直冷める。テンションが上がらない。仮にこのキャラクターが男性でも白人であっても関係なく、ね。…保守的な意見かな?

しかし、やはりボンドの“ラスト・シーンは最高だった。

6代目ジェームズ・ボンド役が決まるやいなや、まだ作品を見てもいない人々から大バッシングを受け、英国ではアンチサイトまで作られたダニエル・クレイグ。

非難轟々の中で、彼が初めてボンドを演じた『カジノ・ロワイヤル』は、それまでの007シリーズで最高の興行収入を記録、ファンや批評家からは、作品もダニエルの演技も絶賛で迎えられ、ジェームズ・ボンド役で史上初めて英国アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされるなど、まさに結果で見返してやった彼の、ジェームズ・ボンドとしての、最後の大熱演をぜひ見てほしい。

(※このあたりの苦悩は、ドキュメンタリー『ジェームズ・ボンドとして(原題:Being James Bond)』で描かれています。だいぶ前にアマプラで視聴できたんだけど、2023年2月現在は視聴できないようで残念。復活してほしいなぁ)

この“最後”を見るために、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』があると言っていい。

ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンド、ラストの勇姿を見届けよー。
スコット

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