ラウぺ

少女は夜明けに夢をみる/ 夜明けの夢のラウぺのレビュー・感想・評価

3.9
罪を犯してイランの更生施設に収容されている少女たちへのインタビューと日常の様子を描くドキュメンタリー。

中東で第2の人口を有し、首都テヘランの人口は1300万人で東京都とほぼ同じ。イランは豊富な石油資源を背景に先進国に劣らない社会基盤を整え、宗教上の最高指導者が国家権力の頂点を収めるイスラム共和制を敷いているとはいえ、この映画に登場する少女たちの犯罪歴は想像を遥かに超えて言葉を失います。
強盗・殺人・薬物・売春・・・この世のあらゆる犯罪の類はすべてここに揃っている、といって過言でないと思います。
「何回泥棒を?」→「髪の毛と同じ数」

ただ、インタビューを聞いていると、どの少女も極めて過酷な家庭環境に育ち、非常に多くの少女が親や親戚から虐待、それも性的虐待を受けていることが分かります。
愛情につつまれた生活とは無縁な環境と過酷な体験が、彼女たちを犯罪に走らせたと考えるのはごく自然な成り行きではないかと感じます。
施設に収容された諦めか、それとも同じ境遇の仲間が居る安心感からか、告白の現実離れした過酷さとは裏腹に彼女たちは意外にも楽しそうな表情で語らい、仲が良さそうに見えます。積もった雪で雪合戦に興じたり、雪だるまを作ったり、成人前の少女の普通の様子と変わりません。
しかし、インタビューの内容からは彼女たちに将来の希望がまったく見える様子はありません。
「希望は」→「死ぬこと」、「将来子供を産みたい?」→「泥棒の子供は泥棒になる」
釈放されても元の暮らしに戻るだけ、という状況は映画がイランの更生制度について殆ど描いていないこともあって、彼女たちが出所後にどのような人生を送るのか、我々にはまったく想像することもできないのです。

施設に定期的に訪れる聖職者に少女たちがさまざまな疑問を問う場面がありますが、「男と女では命の重さが違うのはなぜ?」とか「父親が子供を殺しても罪にならないのに、子供が親を殺すと死刑になるのはなぜ?」とか質問しても聖職者は「社会の平穏が大切だ」と述べるのみ。
イスラム国家において女性の権利が制限されている事例はよく耳にしますが、彼女たちが過酷な状況に追いやられ、そこからなかなか抜け出せないひとつの要因になっているのは間違いないと感じます。
とりわけ象徴的なのが父を殺して収容されている少女の告白。
母親や姉たちと相談し、薬物中毒でその資金を得るために娘に売春をさせていた父を殺した、とのこと。
単純に社会制度や宗教だけに帰して良い問題ではありませんが、監督が問題意識を持っているからこそ登場しているエピソードなのではないでしょうか。

監督は1969年のテヘラン生まれ、とのことであり、イランで最も重要なドキュメンタリー監督とのこと。このようなセンシティブな問題を含む施設をよく撮影できたものだと思いますが、許可が下りるまでのリサーチに7年かかったとのこと。やはり容易なことでは実現できなかったのだと思います。

「ここは“痛み”だらけだね」→「四方の壁から染み出るほどよ」
映像からは想像を超える告白の連続で、彼女たちの痛みはほんのごく一部を窺い知るのみですが、海の向こうではこのような過酷な現実に直面している少女たちが居るのだと知ることが、その痛みを知るまず第一歩なのだと感じました。
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