海

泳ぎすぎた夜の海のレビュー・感想・評価

泳ぎすぎた夜(2017年製作の映画)
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雪は鳴る。冬には音階があり、たからくんの世界にはつかまえた先から逃げていくほどたくさんの音があそんでいる。わたしたち、眠っているあいだのことなんて知っているはずもないのに、どうして髪を撫でる手のひらに、夜に溶けていくまなざしに、こんなにも涙がこぼれそうに懐かしい気持ちになれるんだろうか。たからくんは一つずつ、色んなものをなくしていく。そして一つずつ元の場所に帰っていく。あさがくるまえに、きみが起きてしまうまえに、きみの大切な宝物の夢が覚めてしまうまえに、すいすいと夜を泳いでいく。たからくん、どこまで行った夜もきみはやっぱり昨夜と同じ毛布の中で眠りにつく、この真っ白な雪の下、時に言葉よりも確かな静寂の中、きっとすべてが正しい場所に帰っていくの。世界中から祝福を受けるような雪の日は、まるで、海の中だった。小さな小指に大きな絆創膏。夜明けの前に響く車のエンジンの音。いとしさはまた一晩のうちに、静かに音を立てて降り積もる。

台風の予報の日、避難勧告も出てたのに、空は晴れて鳥は鳴いていてとても心地のいい日だった。劇場を出た後、世界はそれまでより少し違って見えた。
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