セサミオイル

友罪のセサミオイルのレビュー・感想・評価

友罪(2017年製作の映画)
3.9
複雑で重い話を最後まで見られたのはストーリーテリングと演出の勝利だろう。すごい。
ラストだけほんの少し違和感があったが、問題提起としては大成功かと思った。

こういう話を見た時いつも思う事がある。
例えば町にイノシシが出で畑を荒らしたり人に怪我させたら追い回され射殺か檻に入れられるかである。この!イノシシめ町になんか出やがって!ってなもんである。
人に怪我させたり畑を荒らしたんだから当然だ。
でもイノシシに悪気があったかというと、たまたま町に出て来ちゃって人間社会のルールもよく分からずに本能のままに行動しただけだ。その結果人が傷ついた。被害者からしたら最悪であるがイノシシには罪の概念すらない。それでも射殺される。このイノシシが1人の人間だとしたらどうだろう。
実際このイノシシに該当してしまうような人間が希にいる。常識人からしたら脅威でしかない。排除!排除!である。でも当人からしたら訳も分からず罪人として社会から遠ざけられる。そしてその家族はなにも悪くないのに責められ責任を負う羽目になる。
これはもう言ってしまえば社会秩序の犠牲と言えるのではないか。殺された本人や家族は明らかな被害者だが、しかし加害者本人は皆が思い描く一般的な悪い人、罪人とは事情が違う。
憎くて人を殺す訳ではなく、お金が欲しくて人を殺す訳でもなくである。
病気としては表からは分かりにくく、専門家でも手を焼くやっかいな性(さが)を抱えて産まれて来た為の悲劇でしかなく、最初に困惑と苦悩に晒されるのは本人であり最初にどん底に落とされるのは家族である。やがて家族以外の人間に被害が及んだとしてもはたして一般の罪と同じに裁くのが正解なのか。そこをとても考えてしまう。

映画ではキャスティングにより瑛太や夏帆に鑑賞者の気持ちが傾くように演出設計されてる節がありまんまと僕も瑛太や夏帆に同情した。
そして人を殺してなくても夏帆の元カレは一級品の悪であり寮の先輩はどうしようもない下衆野郎であり、どちらかというこの2人の方が死んで欲しいと思った。
実はこの世は割り切れないことだらけである。