Yuri

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のYuriのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

これまで学生運動やデモものにそんなに心動かされたことがなかったのですが、本作には泣かされました。日本の学生運動ものは結局何がしたいのかわからない、学生の期間が終わるとしれっと就職する中身のなさと大人たちの無関心で心が動かなくて、でも本作は、政治体制に対する抗議というよりは純粋な町の市民たちの「暴力を振るうな」という抗議で、大人たちも目の前の惨状をほっておけず助けるしかないという、人としての心根の部分に焦点を当てている作品なので、響きました。若い頃のソン・ガンホは最初はやはり「もう少し老けた方がイイ男」と思って観始めるのですが、途中、何度も表情をギアチェンジするタイミングがあり、今回もゾクゾクさせられました(^^) 一人の学生運動とは無縁の男が、人として子を持つ親として、目の前で若者が殴られ続けるのをほっておけず、何より大切な娘との未来の危険を犯してでも記者を送り届けることを選ぶ覚悟の表情から、一夜で見える景色すべてが変わってしまうほどの衝撃を受けた後の表情、命からがら娘のもとへ帰宅した時の恐怖と安堵がない混ぜになった演技が最高でした。最初は超仲が悪かったピーターと言葉は通じずとも本気で互いに感謝し心配し合う関係性に成長していく過程も泣きそうになりました。悲劇を声高に訴えるのではなく、これだけ無言を通じてすべてを語る映画は韓国では珍しいのでないかな?マンソプが偽名を使わざる得なかった状況も切ない。やはり、身の周りで起きている大きな事件に対して、知ろうとしなかったり、関係ない振りをするのは良くないな、きちんと自分の目で見て知って本質に迫れる人間であり続けたいなとあらためて思わされる作品です。
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