みりお

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のみりおのレビュー・感想・評価

4.8
1980.5.18 韓国軍事独裁政権による光州市民弾圧が開始、同時に敷かれた報道規制。

「国が市民に銃を向けているという事実を国際社会に知られないようにする全斗煥政権と、報道の自由を求めるジャーナリストたちの対立」

もしくは「国民を守るべき軍に、いきなり刃を向けられた市民たち」

光州事件においてフォーカスされるのはその辺りがほとんど。
その中で敢えて、ウリナラの中の一市民に照準を合わせたのは、新しい視点で一気に引き込まれる。

「光州5.18」に感銘を受けて、大学生時代を"光州事件と報道"に捧げた私にとっては本当に本当に意味のある映画だった。
人生ベスト10に入る映画に新たに出会えたことに感謝しかない。

ソウルの一般市民の生活から映画が幕開け、敢えて光州の実情を語らないまま、徐々に光州市内、光州市民へと入り込んで行く作りのおかげで、独裁政権による弾圧がひた隠しにされていた当時の中にまるで自分もいるかのようで、マンソプと一緒に光州への道のりを辿っているかのように感じられる構成も素晴らしい。

光州市民とは別の意味だけど、報道に命をかけた人々がいたからこそ、当時の映像・写真が残せたんだなと、ジャーナリズムの真髄を感じた。

5.18に市民が立て籠もった光州市役所を訪れたのはもう10年前。
建物が半壊のまま残されていて、当時の衝突で壊れたのか現地の人に聞いたら、こう言っていた。
「つい最近いきなり解体工事が入ったの。国が国民に銃を向けたという史実を消すために。市民みんなで必死に止めたのよ。」
報道の自由の抑圧はいまもまだ残っている。
決して過去のことではない。
光州事件が人々の記憶から消えて、注目が薄れた隙に史実を消されることがないよう、この映画が出来る限り多くの人に届いてほしい。
みりお

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