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タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のKKのレビュー・感想・評価

4.0
権力が人を殺す瞬間を見た人間は何を思うのだろう。

戒厳令で情報が規制されている中、軍人が理由もなく国民を傷つけるなんて、ちょくせつそのめで見ても信じ難いものなのかもしれない。
しかし、若い学生すらも傷つき、死んでいく事実が間違いなくそこにあった。

戦っても死ぬだけ、しかし、戦わなかったら黙って死んでいく。
「前門の虎後門の狼」とはよく言ったものだ。
立ち向かえば死ぬ事が分かっている。しかし、誰かが戦わなければ別の誰かが死んでいく。立ち向かっても何かが変わるかも分からないのに、命をかけることはできるのか。
無駄死になる。その覚悟で立ち向かうことができるのか。

自分が戦わなければ、今までに死んだ人が無駄になる。そんな思いで立ち向かった人が多いと思う。
どんなに勝ち目の薄い戦いでも、自らを犠牲にして戦うことは必要なのか。

かつての日本の特攻隊にも通じるところがあると思う。
死ぬことが分かっていて敵に立ち向かうのは果たして美談として片付けていいのか。

マンソプは、光州の現実を知って自らも戦うことを選んだ。愛する娘が家で1人で待っていることを知りながら、それでも光州に戻った彼にはどれほどの覚悟があったのだろう。人が死ぬ様を目の当たりにして、死を実感した。1度はソウルに戻ろうとし、そのまま娘の元に帰ることも出来た。それでも、光州の現実を帰るためには自分のタクシーが必要だった。

ナンバープレートを見つけても見逃してくれた軍人。市民を躊躇なく殺害する、腐りきった組織の中にも良心が残っている人間はいるのだろうか。
世界でも、明らかに間違った政府に対して国民がデモを起こしても、警察がそのデモを武力を行使して沈静化する。
その警察一人ひとりは、どういう気持ちで責務を果たしているのだろうか。
人を傷つけることに何の罪悪感も抱かないのだろうか。

もしも自分の子供がその姿を見ているとしたら、胸を張って帰れるのだろうか。

公務員は国のために自らを滅しなければいけないことは分かっている。
だけど、その中にも少しの良心と人を傷つける想う気持ちがあることを願う。
KK

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