ジャン黒糖

キングのメッセージのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

キングのメッセージ(2016年製作の映画)
3.3
前回に引き続き『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』に向けて干渉したチャドウィック・ボーズマン作品。
(偶然にも前回の『キングオブエジプト』からの"キング"続き!)

【物語】
南アフリカからジェイコブ・キングと名乗る男がアメリカはL Aを訪れる。
連絡が途絶えた妹を捜すため、渡米したジェイコブだったが、程なくして妹がすでに何者かによって殺されていたことを知る。
殺された理由を突き止めようとするジェイコブだったが、その真相にはギャングや政界の存在など、自分には知らない妹の姿が浮かび上がってくるのだが…

【感想】
ジャンル映画として、主人公の知らない世界を暗中模索する姿はサスペンスフルでいいねぇ。
妹の死の真相に迫りたいのに、彼女を取り囲む環境はなかなかに危ういしハードだ。
やけに初対面でも優しい妹の隣人トリシュ、知らなかったギャングとの関係、息子アルマンドなど、知っていたハズの妹の面影はない。

真相を突き止めようとする中で現れた歯科医ポール・ウェントワースさんの怪しさが半端ない。
「歯は雄弁だ」え、そうなの?!笑
ギャングの輩とは違い、自らは一切手を汚さない生き方をしてきた男の狡猾さたるや。
観たことある顔だと思ったらワイスピ6のオーウェン・ショウじゃんか!
(ジェイソン・ステイサム演じるデッカードの弟)


描写としては重たい空気がつづく中、徐々に事件の真相が見えていく中で溜まっていった主人公ジェイコブの怒りがついに爆発して以降が素晴らしい。
チェーンを使った暴力など、痛々しい描写が続く。

そう、ここまできてようやく、この映画は「怒らせた相手がとんでもない男だった」系のジャンルであったことに気付かされるのだが、『96時間』などの映画と本作が異なるのは、もう助けたかった妹がこの世にはいない、ということだ。
取り返しのつかない事態に対し、男はどう振る舞うのか。
ただのタクシー運転手のはずのジェイコブがなぜそこまで戦えるのか。
その理由は彼の育った街であり、妹ビアンカが出ていった街にある。
彼の強さの秘密が最後まで明かされないのは、面白い演出だと思った。

止めるべきだった、とジェイコブが語る”2人”の死。

妹の死の真相も、ことの顛末も、主人公ジェイコブの思い描いた出来事では決してない。
彼がかつて幼い頃、3人兄弟で楽しかった思い出はもう見る影もない。
苦い後味が残るラスト。

本作と同年に制作・公開された『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』でブラックパンサー役に大抜擢となったチャドウィック・ボーズマン。
彼の単独作である『ブラックパンサー』では軋轢を生んできた文化の違いに対し、怒りをぶつける方法としてワカンダの兵力を利用することも可能ではあったが、他国と親交することで人類全体の発展を願った男を演じた。

本作と作品のテイストこそまるで違うが、本作は、アメリカという国に対し、虐げられた被害者側の遺族による怒りの制裁を下す、という終始怒りに満ちたような作品となっている。

ジェイコブが寝泊まりするモーテルで生活する女性ケリーは、虐げられた側の、なんとか逃げ出したい現実への諦めを感じさせ、彼女の存在もまた、妹を失ったジェイコブにとっての癒しでもあり、対比でもあり、よかった。
(テリーサ・パーマー、目力あって印象残る顔立ちで好きなんだよなぁ。)

大切な人を亡くし、怒りを抱えた主人公、という点においては図らずも、『シビル・ウォー』で父を亡くした男テイ・チャラとの共通点のようにも感じた。
スタッフのクレジットが出てくる頃にはこの映画の重たい余韻が残った。

決して高評価な映画ではないが、ジャンル映画として嫌いになれない要素のある一本でした。
ジャン黒糖

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