キャッチ30

花筐/HANAGATAMIのキャッチ30のレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
4.1
 まるで、発禁本を読んでいる感覚に近い。戦時下の日本では、検閲制度により思想的に危険視されたものや性的描写に関する書物は発禁処分されていた。今作に関して言えば、声高ではないが反戦映画であり、性愛描写が随所に見られる。

 時代は1941年。日中戦争が勃発し、太平洋戦争が間近に迫っていた佐賀県唐津市。アムステルダムから帰国した俊彦は叔母の圭子の家に身を寄せていた。新学期を迎えた彼は、観念的な吉良、屈強な肉体を持て余している鵜飼、喘息持ちで剽軽な阿蘇と出会う。さらに、肺病を患う従妹の美那や女友達のあきねや千歳も絡んでいく。

 大林宣彦監督は戦争の消耗品でしかない青春を謳歌しようとする彼等の姿を描く。百花繚乱な映像とは裏腹に、兵隊姿の案山子が増え、人間の兵士になって歩いていく姿は忍び寄る戦争の波を象徴している。

 曲者俳優が多く起用されているのも特徴か。中でも目を惹くのが吉良を演じる長塚圭史と鵜飼を演じる満島真之介だ。長塚は病弱だが哲学的で従姉妹の千歳と近親相姦におよぶいやらしい男を体現する。対する満島も頑健な肉体から危険な色気を醸し出す。全裸で泳いだり馬で駆け巡る姿は三島由紀夫を連想させる。この二人の磁力のぶつかり合いが俊彦と美那、千歳を翻弄する。常盤貴子の妖艶さも映画に活力を与えている。